SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「野生の証明」。
* * *
阿佐ヶ谷の安アパートで暮らしていた時代のことである。
当時はロクに仕事もなかったので、昼間、よく散歩に出かけた。「犬も歩けば」ではないけれど、歩き回ってさえいれば、何か人生を変えてくれるような出会いがあるのではないかと思っていたのである。
その日もあちこち歩き回って、アパートの前まで戻ってきたのだった。木造モルタル築うん十年。相変わらずのオンボロアパートだったが、ちょっとだけ様子が違った。ちょうど大センセイの部屋の窓の前あたりに、かなり大きな生物が蹲っていたのである。
「キジバトだ!」
首の付け根から血が流れていて、羽がべったり濡れている。大センセイ、思わず抱き上げると近所の動物病院へ走った。
たしか川口動物病院といったと思うが、白衣を着た初老の医師が出てくると丁寧に診察してくれた。
「ネコかカラスにやられたね。しばらく飼えますか?」
一瞬、あの部屋で……と思ったが、そこは物好きな大センセイである。なんとかなりますと返事をした。
ポッポという月並みな名前をつけ、細かい穴をあけた段ボール箱の中に入れてみると、弱っているせいか意外に暴れない。これならなんとかなるだろう。
しかし、エサはいったい何をやればいいのか。なんせ人間が食べる物にも事欠くような生活だったから、ペットショップでハトのエサを買う余裕などない。
「ハトといえばパン屑だ」
そう決め込んでパンの耳を細かく刻んでやってみると、意外にもポッポはよく食べたのである。
段ボールにパン屑と水を張った器をセットし、穴からポッポを観察してみると、本当に「ハトが豆鉄砲を食ったよう」な顔をしているので思わず笑ってしまった。
「キジバトと一緒に暮らすのも、悪くないな」