ただし、こういう結果はいわゆる「サロゲート」なアウトカム、人間の健康に直接意味のあるアウトカムとはいえない。
人の健康に関係あるアウトカムとは、例えば、病気にならない、とか死なない、とかそういったわれわれの健康にダイレクトにインパクトを与えるアウトカムだ。
「ヒトの健康」に寄与するかどうかを吟味するかは、体内の農薬残存量ではなく、その結果、病気や死がもたらされたかというより、われわれに密接したアウトカムで評価しなければならない。これをハードなアウトカムとぼくは呼ぶ。血中の薬剤濃度などは、より関連性の低いソフトなアウトカムだ。
このシステマティック・レビューではそのような効能を有機食物に見いだすことはできなかった。湿疹とか喘息(ぜんそく)とかの病気が減る、あるいは寿命が延びるといった健康への直接の効能は確認できなかったのだ。
有機食物を取っていても、そうでなくても、健康になったり不健康になったり、という点での影響は(少なくとも現時点でのデータを見る限りは)なさそうなのだ。
◯岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著に『もやしもんと感染症屋の気になる菌辞典』など