ぼくの個人的な見解を申し上げると、有機ワイン、ビオディナミワイン「だから」おいしくなったりはしない。

 しかし、有機ワインやビオディナミに取り組んでいる農家はほぼ例外なく一生懸命、真剣に、そして丁寧にワイン造りに取り組んでいる農家だ。 

 なにしろ、農薬を使わないだけでもものすごく大変だ。うちの庭にも非常にささやかな植物が植えてあるけれども、農薬なしだと虫がついて、それをいちいちとりのぞくのは非常に大変だ。ましてや広大なブドウ畑を農薬なしで対応するというのは、とても難しいのではないかと思う。
消費者目線で言えば「農薬使うな」「化学肥料使うな」「自然のままで」と安易に要求できるかもしれないが(そしてそういう要求はしばしば耳にするが)、言うとやるのでは大きな違いがある。

 そのような有機農法にあえて挑戦している農家は、ブドウやワインに対する愛情がただならぬものであることは間違いない。

 こだわり抜いたブドウ栽培とワイン造り。結果として有機ワインやビオディナミがおいしくなりやすいと、ぼくは思う。それが農薬の有無を原因とするかは別として。

 では、安全面、健康面についてはどうか。

 有機ワインやビオディナミはより健康によいワインになるのか。反対から言えば、農薬や化学肥料を使ったワインは健康に有害なのか。

 これについては、有機食物(畜産物を含む)の健康への寄与を研究したシステマティック・レビューがある(Smith-Spangler C et al. Ann Intern Med. 2012 Sep 4;157(5):348–66)。

 システマティック・レビューというのは現存する関連研究を「全て」調べて、その総合的な価値を吟味する研究だ。インターネットで網羅的に論文検索、研究発表の検索ができるようになり、こういう研究スタイルが可能になった。

 システマティック・レビューの特殊なタイプにメタ分析(meta-analysis)というものもある。ぼく自身もなんどか、このシステマティック・レビューやメタ分析を行って健康に関する諸問題を研究してきた。

 これによると、有機食物を取っているとそうでない食物に比べ、体の中に残存する農薬の量は減るかもしれず、また薬剤耐性菌への曝露(ばくろ)が少ないかも、という結果だった。薬剤耐性菌については鶏などに使われる抗生物質の有無がその違いの原因になっているようだった。

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