

社会風俗・民俗、放浪芸に造詣が深い、朝日新聞編集委員の小泉信一が、正統な歴史書に出てこない昭和史を大衆の視点からひもとく「裏昭和史探検」。
【写真】こういったサービスもイメクラが派生したひとつかもしれない
妄想が膨らんでも、実社会でおいそれと実行に移すわけにはいかない。だったら、それを疑似的に実現できる場をつくってみたらどうか。今回は、そんな発想で誕生した「イメージクラブ」について語ってみよう。
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川端康成に『眠れる美女』という短編がある。波音が聞こえる海辺の宿。すでに男ではなくなった老人たちの「秘密クラブ」となっており、若い女性が裸のまま眠らされている。そこで、ひと晩添い寝をするという官能的な物語である。
海外でも人気が高く、オペラや映画にもなった。だが、飛びついたのはそればかりではない。「似たような体験ができる」。そんなキャッチコピーを掲げた風俗店が現れた。昭和61(1986)年、東京の鶯谷にできた「夢」という店である。元中学教師が開いたというが、何を教えていたのだろうか。
夕刊紙などの三行広告で客を募ったところ、なぜかインテリ層に受けた。昭和の終わりから平成にかけて口コミで人気がじわじわ広がり、やがて高田馬場に類似店ができたという。
さて、今回は卑猥な想像力を存分に膨らませるイメージクラブ(通称・イメクラ)の話をしよう。
「どんな鳥だって想像力より高く飛ぶことはできないだろう」。そう説いたのは劇作家の寺山修司だったが、たしかに人間の想像力は偉大。伝説のAV男優・安田義章さん(故人)も12年前、88歳のときに本誌のインタビューでこう答えていた。
「ここ(下半身を指して)は脳とつながってるから脳の働きがとても大切。実力とか体力は関係ない。想像力があることが大事だ」
アダルトビデオに出演するかのように、自分が主役になって妄想を膨らませるのがイメクラの魅力と言えるだろう。相手の女性との駆け引きを楽しむ心理的要素もある。知的でマニアックでスリリングな遊びかもしれない。