西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、移籍が当たり前の時代だからこそ大切にしたいことを説く。
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西武からFAで浅村が楽天に移籍、炭谷が巨人に移籍することが決まった。菊池は12月3日にポスティングシステムを申請して、メジャー球団との交渉に入る。現場を預かる西武の辻監督は頭が痛いことだろう。エースに主砲、巧みなリードを誇る捕手を失うわけだから。
しっかりと育て上げた高卒選手。早くから1軍デビューした選手ほど、早くにFAの権利を有する。20代後半の脂が乗った選手に出ていかれるダメージは小さくはない。ただ、今季も選手の特長を見て、打ち勝つ野球を選択した辻監督だけに、持っている駒で野球を変えてくれるはずだ。
西武はFA制度がスタートした1993年以降、12球団最多となる18人が流出したという。これだけ外に行くということは、選手の目が外に向く原因が球団にあるはずである。いま一度、球団としての魅力、選手へのケアを見つめ直す必要があるだろう。
以前と違って、生え抜き選手でなければ監督になれないという考えはなくなっている。移籍先でも監督になれるし、その球団のユニホームを一度も着なくてもコーチとして招請されることもある。「生涯○○」みたいな選手が重宝される時代ではない。さらに、楽天の石井GMが浅村と交渉の際に「移籍することで人間としてもプレーヤーとしても幅が広がると思う」という種の発言をしたそうだが、多様化する野球へのアプローチ、複雑化する戦術など、新しい環境で経験することは、将来的に選手の幅を広げることにつながるのは間違いない。
ずっと応援してきたファンの方々にとっては、悲しさもあるだろうが、球界の活性化という意味では、移籍は致し方ない。以前に指摘したことがあるが、FA制度、ポスティングシステムはなくしてはならない制度である。ドラフトのウェーバー化で戦力の均衡を図るならば、一定の活躍をした選手に移籍の自由を与えるFAや、早期のメジャー移籍の希望をかなえるシステムは必要だ。早期のポスティング容認の是非などは個々のケースで論じられることはあろうが、ドラフト、FA、ポスティングの三つがバランスをとってこそ、プロ野球に足を踏み入れたい若手が増える。