片田珠美(かただ・たまみ)さん/精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。パリ第8大学でラカン派の精神分析を学ぶ。最新刊は『被害者のふりをせずにはいられない人』(青春新書インテリジェンス)
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見波利幸(みなみ・としゆき)さん/日本メンタルヘルス講師認定協会代表理事。メンタルヘルスに関する講演活動を行っている。主な著書に『心が折れる職場』(日経プレミアシリーズ)、『やめる勇気』(朝日新聞出版)
心の折れやすい職場チェック(出典『心が折れる職場』(日経プレミアシリーズ)見波利幸・著/週刊朝日2018年11月9日号から)

 人生には思いもよらぬことが起きるもの。しかしそこでめげてしまうのも、「いいや、絶対なんとかしてみせる」と奮起するのも心の持ち方次第。一回しかない人生です。不安を乗り越え、楽しい人生を切り開いていく「思考法」を皆さんにお届けします!

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 心がめげない技術を精神科医の立場からアドバイスしてくれたのは片田珠美さんだ。

「なんだか気持ちがめげてしまう、すぐにやる気がなくなってしまう、毎日がつまらなくてどうしようもない。それをシャキッと一瞬で直すことは、はっきり言ってできません。しかし『めげる』原因を人生から排除することはできます。一番いいのは、自分の人生を他人の人生と比較するのをやめることです」

 他人との比較をやめない限り、心にはいつも二つの毒が出てくる。

「一つ目の毒は『羨望』という毒です。17世紀フランスのモラリスト文学者、フランソワ・ド・ラ・ロシュフコーは『羨望とは、他人の幸福が我慢できない怒りである』という言葉を残していますが、まさしくそのとおりだと思います。華やかで楽しそうにしている同年代と自分を比べては、『いいなあ、腹が立つ』。そして腹を立てては、自分は“負け組”なのではないかとめげてしまう。これの繰り返しはかなりキビシイですよ」

 ではもう一つの毒は、いったいどんな毒?

「『他人の不幸は蜜の味』という毒です。『あそこのお宅、ご主人がリストラされたんですって』『○○さんのお子さん、引きこもりになってしまったんですって』。そんな他人の不幸を“蜜”として味わい、『それに比べればウチのほうがマシ』と納得する。このように“自分より幸福度が低そうな人”と比べたときにしか自分の幸福を実感できないというのも苦しいですよね」

 女性も男性も更年期にはホルモンのバランスがくずれ、精神的に落ち込みやすくなる。だがそんなときにこそ「他人の悪口などに走らないことです。他人と比較することをやめて、自分がいま置かれている現実を受け入れるべきです」

 どんな人間も老化する。収入も、役職定年等で突然ガクンと落ちるときもある。

「でも現状は“あきらかに見る”べき。つまり“あきらめる”ことが大切。もちろん積極的な意味でね。そのうえで、いまいる場所で自分自身ができることに集中するのです。隣の芝生なんて、チラ見せずに」

 そして長い人生を生き抜いていくには、多様性を受け入れる「多様力」を持つことだと片田さんは言う。

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