

落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「あと2年」。
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私は今年40歳。前厄。そもそも『厄』などあまり気にしたことがなかった。だって数えで42歳の男だから災難が降りかかりまくるって、まるで合理的じゃないよ。昔はその年回りが、人間として疲れてくるころだったんでしょう? だから患ったりしたんでしょう? 今はそれより10歳上乗せで52、53歳辺りが『厄』でしょう? 身体に気をつけていれば問題ないのさ。
……と思ってても、周りが厄除けに行け行けとホントうるさい。誰かと年齢の話をしたら必ず「厄除け、行った? 行ったほうがいいよ!」と言われるし。その後、自分が行った寺や神社の話、どうかするとその紹介・仲介、行かなかった知人が「どんなひどい目にあったか噺」を嬉々としてしてくるのは何なのか? 電通の仕掛けか? フリーメイソンの陰謀か? 厄除け利権か?「厄除けに行かなかったから、あいつは芸が伸びないんだ!」と言う人までいるし。厄除けして伸びるんならみんな行くって!
で、結局行ってきた。ちょっと怖くなってきたから。実家の近所を散歩中に神社の前を通りかかり、勢いにまかせて「じゃ、やっとく?」と予防注射感覚で厄除け。ただ格好がTシャツ・短パン・ビーサン。
「こんな感じでも大丈夫ですかね……?」とおそるおそる巫女さんに聞くと「たぶん大丈夫だと思いますよ」と半笑い。なるほど厄除けは身なりで人を差別しないのか。
でも厄除けは取るものはちゃんと取る。初穂料1万5千円也。Tシャツの上に、薄い白木綿のチャンチャンコに大袈裟な赤い紐がついた前掛けみたいなヤツを着せられた。向こう脛を出して着るものじゃないな……。
宮司さんは近所の人なのでたぶん私を知ってるはず。珍奇な姿を見て、「あ、川上さんちの伜が里帰りのついでに安直に来たな……」と思ったことだろう。でも何も言わなかった。さすがプロである。ただ、神主さんの唱えるヤツ(正式名称不明)は聞いてていつも笑ってしまう。節をつけて「とぉ~きょ~と~ぅ、と~しぃ~まぁ~く~に居をかまえ~る~ぅ」と住所を歌い上げるところは特にツボ。ニヤニヤしてたら睨まれた。