点滴を打って落ち着いた後、最後に白衣を翻すような感じで格好良く一番エライお医者様が登場し、薬を処方してくれた。「どう? よくなった?」というため口も、気にならない。ありがたやー。既に息苦しさは消え、視界は広がり、清潔な病院で明け方に診てもらえる環境は、やはり素直にありがたいものだと思う。

 帰りは若い看護師に見送ってもらった。ふと「震災が起きた日って、どんなふうに働くとか決めているんですか? 今日みたいな朝の1万倍大変そう……」と聞くと、ハハハと笑われ、返事はなかった。笑いの意図はわからなかった。考えたくないことなのか、患者に答えることでもないと思ったのか。身体は元気になったのに、病院帰りはどっと疲れる。これは何疲れか。病院の職場訪問疲れか、そこかしこに漂う権力疲れか。

 女性・多浪受験者が差別された東医大事件に私の8月は消えかけている。どうしてあんな酷い事件が起きたのか。医大入り口の差別は、私たちの社会にどうつながっているのか。強い危険信号が頭の上で点滅し続けている気分が消えない。病院疲れと差別受験の間、というものを考えている。

週刊朝日  2018年9月7日号

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