著名人がその人生において最も記憶に残る食を紹介する連載「人生の晩餐」。今回は俳優・泉ピン子さんの「竹葉亭」の「鰻お丼と肝焼き」だ。
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このお店は確か、漫才の内海好江師匠に連れてっていただいたんじゃなかったかな。まだ売れない寄席芸人だったころだから、50年以上前になりますね。昔は芸能界の先輩方に、あちこちの名店に連れていっていただいたものです。
ここは店の雰囲気も素晴らしいんですが、自宅を熱海に移してからは、お弁当にしてもらって持ち帰ることも多いですね。私が好きなのを知っているお友達が、医師をしている夫の病院に届けてくださることも。先日も「お届けしたので、召し上がってくださいね」って言われたとたん、頭の中が鰻でいっぱいになっちゃった。山椒をちょっとふりかけてほおばった瞬間の、あの香り。甘すぎないタレも私好みで、それがかかったご飯の味まで、舌が覚えてるの。
帰った夫に真っ先に「鰻は?」って聞いたら、病院で看護師さんたちと食べてきちゃったって。キレましたねえ(笑)。口もきかずにふて寝しましたよ。そんな夫婦喧嘩の種になるほどの好物。食べずには死ねないわ!
(取材・文/浅野裕見子)
「竹葉亭」東京都中央区銀座8-14-7/営業時間:11:30~14:30L.O. 16:30~20:00L.O./定休日:日・祝
※週刊朝日 2018年8月17-24日合併号