早朝ウォーキングを続けている(※写真はイメージ)
早朝ウォーキングを続けている(※写真はイメージ)

 SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機の『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「早朝ウォーキング」。

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 早朝ウォーキングを続けている。いかにもジジむさい習慣だが、やめたいと思ったことは一度もない。さすがに冬の寒い朝は布団から這い出すのが億劫になるけれど、歩きに行きたいという欲求の方が勝るのだ。なぜなら、どうしてもアレを見たいと思うからである。

 アレは、季節が進むのに連れて出現時刻が刻々と変わっていくから、ほんの少しでも出発が遅れると見ることができない。

 そこで、出発時刻を日々調整する必要が出てくるのだが、早朝ウォーキングを習慣にする人の中には、一定の時刻に家を出る人もいるらしい。彼らはアレにこだわっていないのだ。

 大センセイ、このタイプを定刻派と呼んでいる。

 定刻派には、おそらく始業時刻が決まっている勤め人が多いのではないだろうか。大センセイが勝手に「役員さん」と命名している初老の紳士は、決まって五時一五分ごろ河原の“大きな木”の辺りを歩いている。

 すれ違うとき、重厚な張りのあるバリトンで、

「お早うございます」

 と必ず挨拶をしてくる。

 あのトーンで会議なんかでも喋るんだろうなと、会議というものに出席したことのない大センセイは、密かに想像したりしている。

 定刻派には役員さんの他にも、常に黄色いコスチュームの「黄色のおじさん」や、競歩のような早歩きをする「クネクネさん」などがいるのだが、総じてまともな人々である。

 一方、大センセイと同じ調整派の雄といえば、なんといっても「水泳おじさん」であろう。いつも両手を広げてふわふわと泳ぐように歩きながら、誰彼かまわず、

「おっはよ~」

 と馴れ馴れしく声をかけている。

 毎日出会うということは、いかにもいい加減そうな水泳おじさんも、アレに合わせてこまめに出発時刻を変えているに違いないのだが、いつ会っても、泳いでいるようにしか見えない。

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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