アニメ主題歌「Good Night」はメロディックなバラード。続く「パクチーの唄」は、クセのある独特の匂いと味を持つ香味野菜の“パクチー/コリアンダー”への思いを込めたユーモラスな曲。小袋との共作だ。

「残り香」では成熟した大人の恋愛模様を表現した。気だるく物憂げに歌うスタイルは彼女の新機軸だ。「大空で抱きしめて」は、会えなくなった恋人への思いを歌っている。「夕凪」は前作収録の「人魚」の続編とも言える曲で、幻想的な光景と孤独な心情が反映されていて印象深い。

 ラストの「嫉妬されるべき人生」では、夫婦の出会いから、看取りまでの“最愛”を描いた。“人の期待に応えるだけの生き方はもうやめる 母の遺影に供える花を替えながら思う”という私小説的な詞も。“嫉妬されるべき人生”と言い切るのが彼女らしい。

 前作以来、日本語の歌詞に積極的に取り組んだ結果、感情移入しやすくなったファンも少なくないようだ。先にも触れた又吉との対談で“喪失感”こそが制作の原点と語っていたのが印象深い。実際、物事の終わりや始まり、出会いと別れをテーマにした曲が大半を占める。

 ファルセットが醸す不安感。“孤独”な内面をうかがわせる“陰り”のあるたたずまい。一方で、明快でリズミック、ストリングスを配したドラマチックな展開――。35歳という年輪を振り返った私小説的な側面を見せつつ、まだ「半分、青い。」。そのあたりが彼女の魅力であり、たっぷりと伸びしろもある。『初恋』は、これからの彼女のさらなる飛躍を期待させる。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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