そして、「初恋」。テレビドラマ『花のち晴れ~花男 Next Season~』のイメージ・ソングだ。ピアノをバックに、特徴的なビブラートを交えたファルセットで始め、生ギターやストリングスが重なる中、切々と歌いあげる。“I need you”の繰り返しが印象的だ。

 20年前の「First Love」では、“最後のキスはタバコのflavorがした ニガくてせつない香り”と初めて恋した人との思い出を歌った。

 今回の「初恋」では、恋する衝動、人を愛することが、他ならぬ自身を生み、育ててくれた母親や父親との関係性に由来することを明らかにしている。“初恋”ならぬ“初愛”と題してもおかしくない。が、あえて彼女は“初恋”とした。

「(父母からの)無意識の影響をひもといては“何故なんだろう”と追求したり、ときには受け入れようとしたりする。それが私の歌詞の大半のテーマだと思うんです」

 続く3曲では、サウンド・メーカーとしての宇多田のアイデアが光る。アルバムをつくるうえで、作曲の過程では彼女自身がプログラミングしたデモを制作。ミュージシャンがそれを具現化してレコーディングするのが基本的なスタイル。本作ではイギリスの最先鋭のミュージシャンに加え、アメリカから参加したドラムスのクリス・デイヴの貢献が大きい。

 ゲーム・ソフト『KINGDOM HEARTS III』のテーマソング「誓い」では、ハチロクのリズムを鮮明に表現したクリスのキック・ドラムやハイ・ハット・ワークがさえる。歌声は伸びやかで、ラップ的なスタイルも。

 テレビドラマ『ごめん、愛してる』の主題歌「Forevermore」では、クリスがジャジーなドラミングを披露。母親への愛、その葛藤を描き出した歌詞も印象深い。

「Too Proud featring Jevon」では、宇多田ヒカルがその才能を評価する小袋成彬がプログラミングをサポートした。小袋とは『Fantome』で共演したほか、彼のデビューアルバム『分離派の夏』を宇多田がプロデュースした間柄だ。英語によるモノローグのイントロに続いて宇多田の歌が始まり、ラッパーのJevonがセックスレスのカップルについて歌う。SNSの投稿に見られるような“人に嫌われない差しさわりのない表向きだけのつきあい”への疑問もくみ取れる。

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