今年デビュー20周年を迎える宇多田ヒカルの7枚目のオリジナル・アルバム『初恋』が発売1週目で20万枚超の売り上げを記録し、アルバム・チャートで初登場1位となった。前作『Fantome』から1年9カ月。どれだけ多くのファンが新作の登場を待ちわびていたかを物語る。
それにしても『初恋』というタイトルには意表を突かれた。日本だけで870万枚を売り上げたデビュー・アルバム『First Love』と意味は同じ。それを日本語に置き換えただけではないか。
「自分でも象徴的なアルバムタイトルになったと思います」と彼女は語る。
「むしろデビューの頃から今まで、歌っている主題は基本的に変わっていないと思っていて。そうした思いの中でかつての『First Love』から今回の『初恋』という対比が自分の中でしっくりときて……」
アルバムの幕開けを飾るのは、今年4月に先行配信曲として発表された「Play A Love Song」。炭酸飲料のCM曲で、宇多田本人が雪原を無邪気に駆け巡る映像が話題になった。シンプルなフレーズを繰り返すピアノのリフ、ドラムスのキック、パーカッションが奏でる軽快なリズム、ゴスペル・コーラスに心が躍る。
冬の終わりと春の訪れをモチーフにしている。亡き母に捧げられ、本人が「喪に服しているような緊張感があった」と評する前作『Fantome』とは、印象が大きく違う。
「長い冬が終わる瞬間というのは、それが良かろうが悪かろうが“全てはいずれ終わる”という考えに繋がっていて、“諸行無常”という仏教の言葉があるけれど、それを理解して受け入れることは、そんなに簡単なことじゃないよね、っていう。今回はそういう思いが詰まったアルバム」
続く「あなた」は、映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』の主題歌。宇多田も今や1児の母。「もし私が今死んでしまったら、この世に思い残すことはなんだろう」という“母親目線”の歌だ。テレビ番組で作家又吉直樹と対談した際、「予測のつかない日々を送った少女時代の体験が反映されている」と語っていたのも興味深い。