鈴木おさむ/放送作家。1972年生まれ。高校時代に放送作家を志し、19歳で放送作家デビュー。多数の人気バラエティーの構成を手掛けるほか、映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。「ママにはなれないパパ」(マガジンハウス)が好評発売中
鈴木おさむ/放送作家。1972年生まれ。高校時代に放送作家を志し、19歳で放送作家デビュー。多数の人気バラエティーの構成を手掛けるほか、映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。「ママにはなれないパパ」(マガジンハウス)が好評発売中
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蚊だって命がある(c)朝日新聞社
蚊だって命がある(c)朝日新聞社

 放送作家・鈴木おさむ氏の『週刊朝日』連載、『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は「子供に伝える命を奪う残酷」をテーマに送る。

【蚊だって命がある】

*  *  *

 先月、息子、笑福と同じ年のお子さんを持つ母親の方と話す機会があった。3歳を目前にして、道にいる蟻を潰すようになり、どんなふうに注意したらいいかと、困っていた。

 自分も子供の頃、蟻を潰したことはあるし、巣を埋めてしまったこともある。それが残酷なことだと気づくのにずいぶんかかった。45歳を超えた今は、手に止まった蚊をたたくことも躊躇してしまうときがある。

 そんなことを考えていたら、うちの息子である。あとちょっとで3歳になりますが、この1年の間に、妻が海外の仕事に行ってしまうときは数日間、妻の栃木の実家に預けていた。とても自然に溢れているところで、そこで、虫や生き物を見たり触れたりすることが大好きになった。特にテントウムシやダンゴムシが大好きなようだ。

 と思っていたら。数日前。僕と二人で近所に買い物に行き、家に帰ってきて駐輪場に自転車を停めたとき。近くに黒いテントウムシがいた。息子はそれを珍しそうに見る。僕は自転車を動かしていた。そのとき、息子が足をあげて、テントウムシを潰すようなしぐさをした。え?と思い、振り返ると、テントウムシが動かなくなっていた。息子が足で踏んで殺してしまったのは確実だった。

 僕が息子に「今、テントウムシ、踏んだ? 死んじゃったよ」と聞くと、息子は首を横に振って否定する。しばらくテントウムシを見つめる。「死んじゃったじゃん。動かなくなっちゃったじゃん」と言うと、息子の目に一気に涙が溢れる。そして怖くなったのか後ずさりして、下を向く。僕がもう一度「踏んだでしょ?」と聞くが、息子は否定する。

 息子の目から涙が溢れてくる。息子と一緒にエレベーターに乗りながら、今度は「踏んでないんだよね?」と聞いたら、首を横に振った。「踏んだの?」と聞いたら今度は首を縦に。認めた。そしてまた泣いた。

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