こう指摘するのは深田地質研究所(東京)の客員研究員で、地震と津波の歴史に詳しい都司嘉宣さんだ。大地震の歴史を見ても、869年に東北地方でM9クラスの大地震が起きた9年後に現在の東京や神奈川、埼玉の地域でM7クラスの大地震が起きているという。
倒壊・崩壊の危険性が高い建物でも、震度6強で完全に崩れることはまれかもしれないが、防災コンサルタントで1級建築士の三舩康道さんはこう指摘する。
「全体が倒壊しなくても、一部が崩れることで人的被害が出る恐れはある。ビルのガラスが割れて、落ちてくることもあり得ます」
もし明日、首都直下型の大地震が起きれば、倒壊・崩壊する建物が続出し、大きな被害が想定される。都では今回の公表によって、所有者に耐震改修や建て替えを促していくという。
ただ、倒壊・崩壊の危険性が「高い」や「ある」とされた建物でも違法建築ではない。耐震改修せずに、そのまま使い続けることも可能だ。
今回危険性が高いとされた建物では、耐震改修や建て替えの検討をしているところもある。
飲食店などの多くのテナントが入るニュー新橋ビルもその一つだが、実施するのは大変だ。ビルの権利は細かく分かれていて、所有者は300人以上いる。建て替えには所有者の8割以上の賛成などが必要でハードルは高い。
「多くの所有者に納得してもらうためには、判断材料として具体的なデータを示す必要がある。建物の耐震性について、これから改めて調べるところだ。建て替えるのか、耐震補強をするのかなどを今後決めていく」(管理組合担当者)
建て替えや耐震補強の工事中は営業できないため、テナントへの補償なども課題となる。ヒューマックスパビリオン新宿歌舞伎町には飲食店やゲーム店など多くのテナントが入る。ビルを所有するヒューマックスの担当者はこう語る。
「なるべくテナントに迷惑をかけないようにしたいが、24時間営業の店舗もあり、夜間に工事するのも難しい。工事費や補償費用を考えると、建て替えの決断も簡単にできない」