帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「死を生きる」(朝日新聞出版)など多数の著書がある帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「死を生きる」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
心のときめきが最大の要因(※写真はイメージ)心のときめきが最大の要因(※写真はイメージ)
 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。死ぬまでボケない「健脳」養生法を説く。今回のテーマは「心のときめきが最大の要因」。

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【ポイント】
(1) ベルクソンのいう生命の躍動による歓喜が大事
(2)早寝早起き、太極拳、晩酌、女の色気など
(3)心のときめきは単なる快楽とは違っている

 前回、認知症を予防するには、免疫力と自然治癒力を高めなければいけないと書きました。これはがんの予防でも同様で、私はそのためにはどうすればいいか長年取り組んできました。その末に得た結論は、心のときめきこそが最大の要因になるということです。

 なぜ心のときめきなのでしょうか。それに答えてくれたのは、フランスの哲学者、アンリ・ベルクソン(1859~1941)です。

 ベルクソンは生物の進化について考察し、進化のためには内的な衝動力、生命(いのち)の躍動(エラン・ヴィタール)が必要だと論じました。生命の躍動が生命体を突き動かすのだというのです。生命の躍動によって内なる生命エネルギーが溢れ出ると私たちは歓喜に包まれます。その歓喜は単なる快楽ではなく、創造を伴い、自己を向上させるのだというのです。つまり自己実現です。

 私は、長年のがん治療の現場での体験から、この生命の躍動による歓喜こそが、免疫力、自然治癒力を高める要因だと確信しました。そして、この歓喜とは、わかりやすく言えば、心のときめきのことなのです。

 あなたは生命が躍動して心がときめいた経験がありますか。誰でもそういう経験をしているはずです。

 でも患者さんに「心のときめきが大事です」という話をすると、「心のときめきって、どんなものですか」と聞き返されることがあります。そのときは、私自身のときめきを披露します。

 列挙すれば、早寝早起き、仕事、執筆、太極拳、晩酌、旬の刺し身、女の色気、といったところでしょうか。

 
 朝5時30分には病院に着いて、7時30分にはその日の仕事の仕込みを終えます。そのときのうれしさは、一日で最初のときめきです。そして一日中、汗水たらして働く。労働そのものが好きなのです。ですから、休日は大嫌い。

 いつ頃からか原稿の依頼が舞い込むようになり、感謝感激です。出だしは気が重いが、折り返し点を過ぎると、原稿用紙に向かうのが楽しくなります。

 太極拳は連綿とした動きのダイナミズムが心のときめきに変わります。太極拳を通じて心が深まっていきます。この道には終わりがありません。

 そして晩酌。わが養生法の粋にして生きがいです。酒歴六十余年にして、やっと佳境の入り口に立ったところです。その席に旬の刺し身があれば、いやが上にもときめきが高まります。

 そして最後に恋心。今は亡き伊那谷の老子、加島祥造さんは「ときめき!? そいつはなんといっても女だよ!」と言っていました。実際、92歳で逝くまで恋をしていらっしゃったのですから敬服します。

 私も60歳を過ぎてから、女の色気がわかってきたのか、急に女性が好きになりました。最近も衰えるどころか、円熟味を増しています。

 ただし、ベルクソンが述べているように心のときめきは単なる快楽とは違います。ときめきには、自己の深まりが伴っているのです。そこが重要です。

週刊朝日 2018年5月25日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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