アルバムは、アヴァンギャルドな趣のあるインストゥルメンタル「Crepuscular Rays」で幕を開ける。続く「I've Been Waiting For You」でラウドなギターが炸裂。ニール・ヤングのカヴァーだが、そのギター・サウンドはデヴィッド・ボウイのカヴァー・ヴァージョンをお手本にしている。
鈴木によれば、高橋のコード・ストロークから始まり、生ギターにエレキなど重ねたギターの数は7本を超すようだが、当人も厳密な数はわからないらしい。間奏でのロバート・フリップ風のギターはゲスト参加した小山田圭吾の演奏。鈴木はジョー・ウォルシュ風のフレーズをはさみこんでいる。シンセ・ベースにしたのは“アナクロにはなりたくない”というこだわりからだという。
続く「鼻持ちならないブルーのスカーフ、グレーの腕章」の演奏展開、サウンド・プロダクションも見事だ。ファンク・テイストの曲で、ベースのフレージング、グルーヴが最高にゴキゲン。これは砂原良徳のシンセ・ベースだ。それに刺激され“ドラム魂に火が付きました”と語る高橋。モビー・グレイプやバッファロー・スプリングフィールドへのオマージュであるギター・リフ、矢口博康のサックスとベースが絡んで織りなすグルーヴは圧巻。本作でのハイライト曲である。
世界の局地的な戦争状態を憂える歌詞で、批判を込めたメッセージ・ソングだ。ビートニクス結成以来の起爆剤であり、テーマの一つである“怒り”をあらわにしている。ブルーのスカーフ、グレーの腕章をした人は独裁者を意味するという。
「Brocken Spectre」のタイトルは山頂などで見られる光学的現象の“ブロッケン現象”のこと。鈴木が高橋の母親をイメージし、友人である遠藤賢司の死も踏まえ、この世を去った親や友人への思慕をテーマに書いたところ、はからずも鈴木の母親が亡き人となってしまったという。