



2014年、「消滅可能性都市」のひとつに数えられながら、人口減の現実を受け入れつつ、「創造的過疎」を掲げる徳島県神山町。山あいにあるこの町は、人口約5400人のうち約半数が65歳以上だ。かつて盛んだった林業も衰退する。だが、首都圏のIT企業など20社近くが本社を移転させ、あるいはサテライトオフィスを置き、全国からの視察は絶えない。町で移住促進を担うNPO法人「グリーンバレー」の大南信也理事長(65)に話を聞いた。
【写真】「えんがわオフィス」のえんがわの光景。夕方には町民が宴会を始め…
サテライトオフィスなどが誕生したのは、移住者を逆指名する「ワーク・イン・レジデンス」がきっかけ。大南さんは「雇用がないから移住者は来ない。だったら仕事を持つ人たちに集まってもらう。そうすると、この周辺に雇用が生まれる」と説明する。移住者と地元住民の交流もさかんだ。
「価値観が異なる人を見て、最初はわけがわからない。あれはおかしい、と。でも、見続けると風景化して、特異なものと認知しなくなる。一緒に生活していくことで寛容になり、(相手を)受け入れられる素地ができあがる」(大南さん)
逆指名から10年ほど経過するが、一部からは「なぜ移住者だけを優遇するのか」と不満の声も聞こえてくる。かつては自営業だった家庭の長男は地元に戻っていた。だが、人口減が激しく、「うちの町には可能性はない」と刷り込まれていく。そこで、「町に貢献したい」と申し出る移住者に対し、大南さんはこう説く。
「町を出ていった人たちに、『可能性がある』と示してほしい。可能性の積み直しで、ものの見方を変えてほしい」
確かに、山の中でIT企業が仕事をこなすことで、その説明が立つ。地元出身の若者が就職するケースも出てきた。可能性を確信するところまできている。その手応えを感じることもある。地元で暮らし続けていた70代の男性が大南さんにこう言った。「今の変化がどこに行くのか、見てみたい」と。
今後の町の進路はどこに向いているのか。徳島県内の大学生や高校生と話していた際、「(徳島は)おもろない」と返ってきたことにヒントを得ている。
「お金で買えるサービスは少ない。おもしろくなかったらおもしろくする。足りないのだったらつくりだす。新しい可能性を掘り起こす。『こんなことができる』と見せ続けるのが神山町の役割だと思っている」(大南さん)
中長期のプランとして町内に高専学校をつくることを挙げる。IT企業の経営者らをはじめ、講師陣はそろっている。町の子供たちは、中学を卒業すると、多くが徳島市内の高校に進学し、そのまま大学や就職をして町から遠ざかる現実がある。
目標とするのは、地域おこしの先進地として知られ、公立塾を設置するなど、「島留学」で全国から生徒が集まる高校を抱える島根県海士町だという。
※週刊朝日 2018年5月18日号