作家・林真理子さんのエッセーにたびたび登場する「テツオ」さん。実は今話題のベストセラー『漫画 君たちはどう生きるか』の担当でもある、マガジンハウス取締役の鉄尾周一さんです。ベストセラー秘話を林さんが伺いました。
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林:今、どれぐらい売れてるんですか。
鉄尾:漫画版が200万部、原作の新装版が50万部で、合わせて250万部ですね(2018年4月現在)。
林:すごいじゃないですか。ここまで売れると、「実はあれ、俺が企画して鉄尾に持ち込んだんだ」とか言う人、出てきませんか。
鉄尾:います、います。びっくりしました。「俺もやろうと思ってたんだ」と言う人は5人ぐらいいたし、「俺のおかげで売れたんだ」と言う人は10人ぐらいいる(笑)。
林:私が11人目ぐらいかな(笑)。アドバイスしましたよね。
鉄尾:そうなんですよ。おかげさまで。
林:すごく早い時期に鉄尾さんからゲラが届いて「読んで」って言われたんだけど、面倒くさくて放っておいたら、「推薦文はどうなってますか」という電話が3日おきぐらいにかかってきて……。
鉄尾:目を通しもしないんだからね。友達がいがないというか。
林:もうちょっと早くに読んでいたら、本の帯に名前が載ったのに。悔しいな、勝ち馬に乗るタイプの私が(笑)。
鉄尾:でも、売れてからちゃんと乗るからさすがですよね(笑)。
林:私があの本について「an・an」に書いたコラムを、広告文に使ってくれたんですよね(「こういう真面目な本が売れるなんて、世の中捨てたもんじゃない」)。『君たちはどう生きるか』は吉野源三郎が81年前に書いた本ですが、もともと鉄尾さんの若いときの愛読書だったんですよね。
鉄尾:そうです。僕が大学生だった20歳ぐらいのときに、父が「こういう本があるから読んでみろ。バイトとか……」。
林:「女の子のあとばっかり追っかけ回してないで」。
鉄尾:ええ。そう言ってすすめてくれたんです。
林:私もお目にかかったことがあるけど、立派なお父さまでした。
鉄尾:お葬式にも来ていただいて、ありがとうございました。タイトルが道徳的というか啓蒙的だったのでそれに反発はあったんですが、父はあまりそういうことを言わない人だったので、「そんなに名著なら読んでみよう」と思ったんです。そうしたら素晴らしい内容で、自分の大切な一冊になりました。