鉄尾:漫画は文芸以上に編集と作家がガッツリ組んで毎週連載をやっていくわけだから、とてもつけ入るスキがないと思ったんです。それで林さんもよく知っている講談社の原田隆さんに「これを漫画にしたいんだけど、僕、漫画はぜんぜんわからないので、誰か紹介してくれない?」って相談したんです。
林:はい、原田さん。一昨年お亡くなりになって……。
鉄尾:ええ、正月にお墓参りに行ってきました。そのとき原田さんは、「そのアイデア、メチャクチャいい」って言ったんですよ。
林:「講談社でやりたい」って言わなかった?
鉄尾:もちろん言いました。でも彼は人がいいから、羽賀翔一さんという漫画家を紹介してくれたんです。
林:私、実は原作を読んでないんですけど、「おじさん」というのは原作に出てくるんですか。
鉄尾:もちろんです。おじさんとコペル君の話は基本的には変わっていないんですが、原作はもう少しおじさんが先生っぽいというか、コペル君に教える感じが強いんですよ。だけど、せっかく漫画にしたんだから、おじさんもコペル君と一緒に成長するという形にして、あまり啓蒙的にならないように心がけてつくったんです
。
林:おじさんはコペル君のアドバイザーなんだけど、「自分も悩んでるんだよ」という立ち位置ですよね。
鉄尾:そうです。それがよかったんじゃないかと思うんですね。
林:私、なんで子どものときにこの本読まなかったんだろう。
鉄尾:名前は知ってたでしょう?
林:知ってましたけど、なんか面倒くさそうな本だなと思って。
鉄尾:タイトルはそういう感じがしますよね。
林:でも、いじめのエピソードなんか、多くの子どもの心を打つと思いますよ。友達が上級生に目をつけられたとき、「みんなで彼を守ろう」と誓い合ったのに、上級生が友達を取り囲んで「仲間がいるなら出てこい」って言ったとき、コペル君は怖くて名乗り出ることができない。友達を裏切ったショックで熱を出して寝込んでしまったコペル君に対しておじさんは、自分の力でしか解決できないことを伝えるんですよね。