〈……小鹿野高校野球部の皆さんの挨拶(あいさつ)がとても素晴らしい。町のどこで会っても、とてもしっかりしている。……挨拶だけでも明るいまちづくりに貢献できることを教えてくれた小鹿野高校野球部の皆さんをお手本として……〉

 すっかり町民から愛される野球部に変貌(へんぼう)を遂げていたのである。

 小鹿野町は現在、人口に占める65歳以上の割合が35%と、県の平均25%を大きく上回る高齢者の町である。将来のことを視野に入れると、雇用対策も含めて人口減少の歯止めとなる若い世代の育成が求められている。昨年10月に初当選した森真太郎町長のスローガンの一つでもあり、小鹿野高校がその起爆剤になることが期待されている。

「小鹿野高校は町唯一の若さの象徴だ。とりわけ野球部の活躍を大いに期待しているし、町民に甲子園の夢を見させてほしい」

 夢がかなった暁にはパレードもしかねない鼻息だ。

 学校を預かって今年で3年目となる南清孝校長も、野球部を発信源とする生徒全体の好変化にほおを緩める。

「生徒数は少ないながら学校に活力を感じています。野球部の元気が感染し、また町の方々から声をかけていただき、精神的に磨かれているという印象です」

 小鹿野高校が今年掲げた「目指す学校像」は、「地域に愛され、期待に応える学校」である。6年前にスタートした再生プロジェクトの余波は、今ここに結実に向かおうとしていた。

 これほどまでに期待がかかる石山の野球とは? その効果は上がったのか? そもそも石山が本来目指すのはベースボールであり、日本流の野球ではない。

「監督がやるのが野球だ。選手はがんじがらめに縛られ、監督の命令に従ってやらされる。ベースボールは選手自らが考えてプレーし、それを監督が補佐する。だから選手は技術の向上を目指して工夫し、楽しいはずだ」

 高校野球の現場へ行くと、指導者から選手に向けた叱咤激励(しったげきれい)とは程遠い、叱責をも超えた罵詈雑言(ばりぞうごん)が飛び交っている。暴力は排除されたというものの、時代に逆行する理不尽な厳しさも目につき、選手は萎縮し、石山の言うところのまさにやらされる野球を感じさせる。その点、小鹿野高校の選手たちはベースボールであり、なんと“ハイカラ”なことか。

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