と言えば、都内を中心に在宅医療を手がける医療法人社団「悠翔会」の佐々木淳理事長も、

病気が原因ではなく、老化が原因で食べられなくなっているのなら、無理やり食べさせても元気にならないのはわかっているので、本人や家族が望まない限り積極的な治療はしませんね」

 と話す。

 モノを食べられなくなって点滴もしなければ、個人差はあるが、3日から1週間で息を引き取っていく。まさに「自然死」型の亡くなり方だ。

 こうして「自然死」型が増えていくのを見て、今後、この流れが急速に、そして爆発的に広がる可能性を指摘する声が出てきた。

 先の国際医療福祉大学の高橋教授が言う。

「あと数年かそこらで、この国の高齢者の死生観がまるっきり違うものに変わる可能性を感じています。それが現実のものになると、今の介護のありようまで変えてしまうでしょう」

 高橋教授が根拠に挙げるのは、「世代」で違う価値観だ。

 教授によると、大正や昭和の初期に生まれた高齢者は、生き延びることへの意思が強い。せっかく戦争を生き延びた命だから、少しでも長く生きたい、だから治療も最後までやってほしい、こう望む声が多いという。

「あの戦争を大人として生き抜いた人に、共通した価値観と言えるのかもしれません。家族や知人の死を見ているから、なおさらです。大体、今、90歳以上の人たちですね」

 しかし、それが10歳程度下の世代になるとどうなるか。

「終戦時に子供だったため戦後教育の影響のほうが強く、基本的に個人主義なんです。80歳前後の人100人ほどに、『人生の最終段階で、オムツ交換や食事介助をしてもらっても生き続けたいですか』と聞くと、大半の人が『まっぴら、ごめんだ』と答えます。ましてや、これより下の世代、特にこれから後期高齢者になっていく団塊の世代には主張する人が多い。より『亡くなり方の質』にこだわるようになるはずです」

 確かに、冒頭で延命治療を望まなかった黒田さん夫婦も、同じ80歳前後の世代だ。強い意思は世代に共通したものなのかもしれない。そして、こだわる「亡くなり方の質」は「トイレ」と「食事」が自分でできるかどうか、である。

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