高橋教授が予想する終末期は、こうだ。ぎりぎりまで自力でトイレに行ってオムツは拒否、食事も、先の在宅医療の医師たちが基準にしていたように、自分の口で食べられなくなったら寿命と考える──こういう死の姿がどんどん一般的になっていくというのだ。
「幸いITが発達しているので、トイレ関係は機械に補助してもらいながら自立を保てる時期を延ばすことができます。変わる時は、あっという間に変わってしまうと思います。よく例に挙げるのは『仲人付き結婚式』です。かつてはほとんどの人が会社の上司などに頼んで仲人をしてもらっていましたが、今はどうですか。逆にほとんどの人が仲人はつけません。結婚雑誌の調査では、昨年はわずか0.8%、1千人中8人だったといいます。誰もがモヤモヤしていることに、何らかのきっかけで方向性が出れば、広まるのに時間はかかりません」
もう一つ、このことは医療・介護の欧米化が進むことも意味する。
「欧米では、食べものを受け付けない高齢者に、食事介助をして無理やり食べさせるのは『虐待』と見なされます。口からモノを食べられなくなったらあきらめるのが一般的です」(高橋教授)
そういえば、といって高橋教授が思い出すのは、かつて90年代に米国の高齢者ケアの最先端マニュアルを翻訳したさい、「オムツ交換」や「食事介助」を意味する言葉が一切出てこないことだった。
「当時は大変な違和感を感じましたが、その後、わかったことは、要するに実際の高齢者ケアでそういう行為は存在しなかったという事実でした。私たちは、世界中がオムツ交換や食事介助、そして延命治療を行っていると勘違いしてしまったのかもしれません。国が違えば死に方も違うのです」(同)
自然死型を推進している在宅医療の医師たちは、どう見ているか。
先の悠翔会の佐々木理事長は、高橋教授とは見方がやや異なるものの、亡くなり方が変わる方向性には賛成だ。
佐々木氏は、90歳を超す今の高齢者は、長生きするとは思ってなく、つまり心の準備がないまま結果的に生きてしまった、と見ている。