北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表
時間が止まってるのか…(※写真はイメージ)
作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、熊本市の「子連れ議会」問題について。
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熊本市議の子連れ出勤問題、あまりにも87年のアグネス論争と酷似していて驚く。時間が止まってるのか。
当時アグネス・チャンは、母と乳幼児は一緒がいい、という考えから「子連れ出勤」をしていた。「職場が和む」などと語るアグネスにメディアも好意的で、彼女は参議院の国民生活に関する調査会で意見を述べるようにまでなっていた。
アグネス礼賛の空気に待ったをかけたのが林真理子さんと中野翠さんだ。「アグネスが子どもを連れてきて、誰がイヤな顔ができる?」と、二人はジャーナリズムとアグネスの鈍さを批判した。「アグネスなら許されること」が、女一般には通用しない男社会の本音が見えていたのだ。アグネスが「働く女の代表」でもないことも。
二人の批判にメディアは食いついた。女が女を叩くなんて格好のネタだ。さらに、そこに乗じたのが上野千鶴子さんだった。男が「子連れ出勤」しないですむのは誰のおかげか、と「代理戦争」を買って出たのだ。
おかげでアグネスvs.林ではなく上野vs.林になってしまったアグネス論争。この時、林さん等は“リベラル”から叩かれた。「戦争加害国が中国の女を叩くな」という方向違いの批判もあったという。
もちろん、「アグネス論争」には様々なフェミも参戦している。主には“母は子どもといるべきという考えは、母への抑圧になる”“保育園を充実させるべきだ”という意見が中心だった。この方向で議論が深まらなかったことが、今となってはつくづく残念だ。結局、パフォーマンスだけでは議論は深められないという教訓を、アグネス論争は残したのだ。
緒方議員は「お母さんの腕の中は『第2の子宮』」等とインタビューで答えているように、母子分離したくない女性も働ける社会を求めている。もちろん様々な価値観の母親が社会参画できる社会を、という緒方議員の考えには大賛成だ。 その上で、待機児童は基本的には大都市に偏った問題なので、一時保育が可能だったと思われる熊本市議の話を「働く女性の代表」としては考えにくい現実もある。ここで何が問題なのかを直視しなければ、アグネス論争の二の舞いになる。「母親じゃなければ」という声に、「父親はどこだ?」「保育園をもっと増やせ」という議論をしても深められず、曖昧な「多様性を」という声は、時に、今、本当に困っている人の声を遮ることもあるから。
今回のことが、女性に優しい社会の実現に向けての一歩になってほしい。誰もが安心して保育園に入れ、また託児所併設の企業や役所は増えたほうがいい。自民党は、「保育園無料化」を公約したが、保育園を必要とする人は無料ではなく安全で豊かな保育園に入れることを求めている。その切実な声にすら耳を貸せない政治を変えるためにも。
※週刊朝日 2017年12月15日号
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