ただ、これは現状の出発点だ。大谷も「自分を成長させてくれるところ」と話しているが、数年先の全盛期に向け、どういったビジョンを球団側が持っているかが大事になるだろう。それこそ「先発は6番手で10日に1度でいい。その代わり、代打やDHで1~2試合入ってくれ」という日本ハムでやっているような形をとる球団なのか、それとも「投手としてローテーションに入ってほしい。その上で打者も」という球団なのか。大谷がどういう考えを持っているかでも、移籍球団交渉は変わるよね。

 私の個人的な考えで言えば、1年目から大きな期待をかけられ、負荷がかかる球団よりも、「育成」と「戦力」を両立させ、長い目で見て起用してくれる球団を選んでほしい。大谷は25歳未満の海外選手の規定で、マイナー契約となる。巨額の年俸を手にして、結果が出なければ批判されるということもない。1年目から活躍してほしいと思うが、無理だけはしてほしくない。マウンドの傾斜や硬さ、それにボールも違う。投手としては、これまでになかったような体の張りが必ず出る。まだ23歳。じっくり先を見てくれる球団を選択してほしいよね。

 裏を返せば、メジャーの球団が大谷にどんな付加価値を見いだしてくれるか楽しみでもある。メジャーリーグは原則中4日で球数制限があり、先発投手は100~110球で交代となる。その枠内で大谷が二刀流をやることは厳しい。「大谷だけ中7日で球数制限撤廃」とか、新たな起用法がメジャーの中で生まれるかもしれない。過去に例のない二刀流としての挑戦。才能にあふれる世界の野球少年たちに将来の道を切り開いてくれることも願って、注目していきたい。

週刊朝日 2017年12月1日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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