帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「死を生きる」(朝日新聞出版)など多数の著書がある帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「死を生きる」(朝日新聞出版)など多数の著書がある
“腎臓”が寿命を決める?(※写真はイメージ)“腎臓”が寿命を決める?(※写真はイメージ)
 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。貝原益軒の『養生訓』を元に自身の“養生訓”を明かす。

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【貝原益軒養生訓】(巻第七の53)
腎は下部にあつて五臓六腑の根(ね)とす。
腎気、虚すれば一身の根本(こんぽん)衰(おと)ろふ。
故に、養生の道は、腎気をよく保つべし。

 西洋医学における腎臓は、これまでは単なる泌尿器だという扱いだったのですが、最近はその機能が注目されているようです。先日放送された番組「NHKスペシャル シリーズ 人体 神秘の巨大ネットワーク」では、「“腎臓”が寿命を決める」とのタイトルで、重要さが様々に語られていました。

 実は中医学では腎は昔から臓器のなかで重要視されていたのです。ですから、養生訓でも「腎は下部にあって五臓六腑の根本である。腎気が弱くなると、身体の根本が衰えてしまう。それゆえに、養生の道では腎気を保たなければいけない」(巻第七の53)と説いています。まさに「“腎臓”が寿命を決める」という考え方なのです。

 中医学では腎には「先天の精」が蓄えられているとともに、「後天の精」が補充されるという見方をしています。先天の精とは生まれる前に父母から受けついだ生命力です。後天の精は、自然からの気を取り入れたり、飲食物を食べて得られたりするもので、これが絶え間なく腎に流れ込んでいると考えます。

 この蓄えられたり、補充されたりする先天、後天の精が、まさに生命の源なので腎こそが五臓六腑の根本となるのです。

 ちなみに五臓の臓と六腑の腑はともに内臓ですが、腑の方は袋や管の形状をしていて、飲食物を運び消化吸収する役割があります。胆、小腸、胃、大腸、膀胱などがそれに当たります。臓はそこから生まれた栄養物を貯蔵する役割を持っています。肝、心、脾、肺、腎が基本的な臓です。

 
 中医学での腎の機能とは以下のようなものです。

 まず、精を貯蔵することにより、生殖、成長、発育、老化をつかさどります。つまり、腎にある精が不足すると、老化は進むし生殖機能も落ちてしまうのです。

 また、腎は膀胱と関係が強くて、体内の水をつかさどります。これは西洋医学の泌尿器の考え方と重なります。

 西洋医学の見方と違うのは納気という考え方です。肺が呼吸によって吸入した気は腎が受け取ることによって、はじめて全身に巡ることができるというのです。ですから、腎が弱くなると、呼吸が浅くなったり、息切れしたりすると中医学では言われます。

 このほか、骨格の成長、発育を促進したり、毛髪を潤沢にしたり、聴覚を鋭敏にしたりする機能が腎にはある、と考えられています。

 こんなに大事な腎を養うにはどうすればいいのでしょうか。

 益軒は「貯蔵された腎の気を保つことが大事で、薬や食事で腎の気を補おうとするのは良くない」(巻第七の53)と説いています。

 内臓を整えることのできる気功法に八段錦があります。一段錦から八段錦まで型が決まっていて、それぞれに効果がちがうのですが、腎に効くのは六段錦です。手のひらを交互に天に突き上げ、脇腹と腰をしっかり伸ばす動きをします。これにより、腎につながる気の通り道である腎経がリラックスして体への気の巡りがよくなるのです。

週刊朝日 2017年11月24日号

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帯津良一

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帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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