「猫は犬に比べて手がかからないとはいうけれど、人間と同じで年を取ると体調を崩しがちで大変」
とこぼすのは、3匹の老猫と暮らすパート従業員の陽子さん(仮名・68歳)だ。
「最近は加齢のせいで摘便が必要になることが多く、動物病院にかかると1回4千円ほど。不調の原因がわからず麻酔で検査したりすると、それだけで2万~3万円はかかる」
アニコム損害保険のペットにかける年間支出調査(2016年)によると、飼い主が1年間で猫にかけた医療費の平均は約3万5千円。調査対象の猫の平均年齢は5歳ということだから、老猫や多頭飼いとなると医療費はさらに膨らむだろう。それでも、家族同然の愛猫の不調は放っておけないものだ。
しかし、猫の病気や体調不良のなかには、飼い主の行動に起因するものがあるという。その筆頭格ともいえるのが「喫煙」だ。猫専門の動物病院である東京猫医療センター院長の服部幸獣医師は、こう警告する。
「猫も人間と同じように受動喫煙の影響を受けるので、飼い主の喫煙は猫の健康を害することにもつながります。具体的には、リンパ腫のリスクが高まるという研究結果が明らかにされています」
副流煙を吸い込んでしまうリスクに加え、猫は毛づくろいの習慣があるため、毛についたたばこに含まれる化学物質をなめて、体内摂取する危険性も指摘されている。自由に外出ができる人間と違い、室内飼いの猫には逃げ場がない。喫煙習慣がある人は自分自身に加え、猫の健康も害していることを肝に銘じる必要があるだろう。
近年、主流になっている完全室内飼いは、病原菌などに感染する機会が少なく、猫同士のけんかや交通事故に遭うことがないため寿命が長いと考えられている。このため、ワクチン接種をしない飼い主もいるが、これも要注意だという。
「ウイルスは飼い主の靴の裏から入ってくることも。動物病院の受診時に感染することも考えられるので、3種混合ワクチンだけでも接種することをおすすめしています」(服部獣医師)
一方、キャットホスピタルの南部和也獣医師は、「室内飼いが猫の健康に良い」という考え方自体に異論を唱える。
「完全室内飼いはアメリカの都市部から来た習慣ですが、住宅の狭い日本では深刻な運動不足につながっています。運動不足は肥満の原因になります」
人間と同様、猫にとっても肥満は糖尿病や心臓病など、さまざまな病気のリスクを高める。完全室内飼いが普及して以降、10歳ぐらいから病院通いを余儀なくされる猫が増えていると南部獣医師は指摘する。