「猫の寿命が15年あるとして、生涯の3分の1が病院通いというのは幸せとはいえないし、飼い主の経済的負担も重くなる。寿命そのものより、元気に過ごせる『健康寿命』を意識したいものです」
確かに、室内飼いの猫を外に出せば、事故や感染症などのリスクは高まる。それでも、健康寿命を重視するなら外に出すことも検討の余地はあるだろう。
「特に狭い家や階段のない家での室内飼いは注意が必要です。外に出せない場合でも家具に上り下りしやすい環境を整えたり、散歩に連れ出したり、積極的に遊んであげたりするなど、なるべく体を動かせる環境をつくってあげましょう」(南部獣医師)
運動不足に加え、食事の与えすぎも肥満の原因となる。最近は猫用のおやつがブームになっているが、喜ぶからとあげすぎてはいないだろうか。前出の服部獣医師は、1日の摂取カロリーを決め、食事はその範囲内で与えることを勧める。「体重管理は健康維持の基本です。最近は20歳ぐらいまで長生きする猫も少なくありませんが、肥満の猫でここまで長生きする例は見たことがありません」
太り気味の猫に対しては、糖尿病の初期症状を見逃さないよう観察する必要があるという。糖尿病は治療が遅れると後ろ脚に力を入れにくくなったり、さまざまな不調が表れやすくなる。急に体重が減ったり、水を飲む量や尿量が増えたら糖尿病が疑われるので、普段から飲水量と体重を定期的にチェックしておくことが必要だという。
南部獣医師は、食事の量だけでなく内容も見直してほしいと話す。
「市販のキャットフードが最適と思っている人が多いようですが、そうとは限りません。猫は肉食動物で、本来は炭水化物が必要でないのにもかかわらず、安価なキャットフードほど多くの炭水化物が含まれています。血糖値の上昇につながり、糖尿病の原因にもなります」
食事に関しては、コストや手間を考えるとキャットフードに頼ってしまうのは仕方がない面もある。しかし、余裕があるなら、タンパク質の量の多い高級キャットフードを与えるよりも良い方法があるという。
「精肉を加熱して与えるのがベストです。比較的安価な鶏むね肉やササミなどで十分で、余裕があるときだけでもかまいません。『人間の食べ物をあげるのはよくない』と言われますが、例えば唐揚げの衣を取って分け与えるくらいなら問題ありません。ただし、パンやお菓子など炭水化物が多いものは論外です」(南部獣医師)