中澤さんの場合、退院直後にかかりつけ医や訪問看護師、ケアマネジャー、介護スタッフとケアカンファレンスをして、母親が機能を取り戻すためにはどうしたらいいか話し合った。
「その結果、通常の訪問診療や訪問看護、介護、デイサービスに加え、リハビリを中心にするデイケアにも通うことにしました。このとき、訪問看護師とは、『今後はできるだけ母親を入院させない』ことを申し合わせました」
中澤さんの母親は、腎不全が悪化し「いつ何が起きるかわからない」状態だった。そこで徹底したことの一つは、救急車を呼ばないこと。訪問診療も行うかかりつけ医や訪問看護師は、緊急用の携帯電話の番号を父親に教えていたという。
「『絶対に救急車を呼ばないで、その前にわたしに連絡をください』と何度も父に伝えていたようです。父は最初は何かあったら困ると入院させたがっていましたが、かかりつけ医や看護師のおかげで、入院や救急車という言葉を出さなくなりました」(中澤さん)
今年の夏、中澤さんは自宅で母親を看取った。最後は食べものを受け付けなくなったが、スイカ水をおいしそうに口にしたという。
「入院治療と在宅での治療を比較したアメリカの報告がありますが、在宅でみたほうが生活機能の低下が少なく、治療期間も短かった。一方、死亡率は両者で変わりませんでした。日本でも手厚い在宅医療、看護を受けられれば、入院は不要です」(山口さん)
その一方で、「すべての入院が悪いわけではない」ともいう。自宅に患者を受け入れる環境が整っていなければ、かえって病状が進むおそれがある。また、家族も介護の疲労がたまり、患者の介護どころではなくなってしまう。また大腿骨頸部骨折のようなものは、手術で治してすぐにリハビリを行ったほうがいい。
いずれにしろ、どこでどんな治療を受けるのか。入院のリスクも踏まえて、家族で話し合っておいたほうがいいだろう。
※週刊朝日 2017年10月6日号より抜粋