高齢者にとって入院が“害”になることもある──。そんな、にわかに信じがたい実態が少しずつ明らかになってきている。問題になっているのは「入院関連機能障害」で、足腰が弱って歩けなくなったり、意識障害を起こしたり、認知症を発症したり……。高齢者の安易な入院は、かえって健康状態の悪化を招くという。
残念なことに、こうした機能障害についての知識が乏しく、入院中の患者への対策が不十分だったり、「入院させたほうがいい」と考えたりする病院も、まだまだ多くある。ノンフィクションライターの中澤まゆみさんは、母親が入院している病院の看護師に、「何か対策を取っているのか」と聞いた際、「え? 何もしていませんが……」という返事が返ってきたという。
「それが当然のことという感じでした」(中澤さん)
2年前まで関西地方の急性期病院に勤務していた看護師のAさんは、「当時は入院リスクについて、意識があまりなかった」と打ち明ける。
「手厚い医療や看護が受けられる入院治療が大前提で、在宅では見守りぐらいしかできないから、患者さんを自宅には帰せないと思っていたんです」
それが間違いだと気づいたのは、高齢者施設に転職してからだ。
「93歳の入居者さんが肺炎にかかったんです。てっきり入院するものだと思っていたら、施設で治療した。施設を担当する在宅医の指示で、抗菌薬を投与したところ、お元気になられたんです。施設でも病院と何ら変わらない治療や看護ができると痛感しました」
高齢者施設の入居者は、さまざまな持病があり、肺炎などの感染症や骨折などで、入院せざるを得ないケースも少なくない。だが、Aさんは施設でも対応できることを知ってから、家族の希望があれば、病院の医師や看護師に「施設に任せてください」と話し、できるだけ早期の退院を促すようになったという。
では、どうすれば入院関連機能障害によるダメージを減らせるのか。ふくろうクリニック等々力(東京都世田谷区)院長の山口潔さんは在宅医の立場から、「まずは外来や在宅医療をできるだけ利用し、安易に入院しないこと」と助言する。