伊藤忠商事会長、民間出身初の駐中国大使として活躍した丹羽宇一郎さん。誰もが認めるエグゼクティブでありながら、気さくなお人柄も印象的です。『死ぬほど読書』という本を出版した丹羽さんは作家・林真理子さんとの対談でも読書の話に。おふたりはその重要性を語りました。
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丹羽:僕は中学生のころから「夫婦生活」という大人向けの雑誌とか、『アルス・アマトリア』という古代ローマの恋愛指南書なんかを読んでいました。僕にとって女性というのは神秘的だったんですよ。まだ実技がぜんぜんないわけだから。
林:田舎の中学生ですからね。
丹羽:同じ時期に、「大法輪」という仏教の雑誌も読んでいたんです。
林:すごいですね。「夫婦生活」と一緒に読んでいるなんて(笑)。
丹羽:漫画も春本もいっぱい読みました。そういうものからも学びがあるんです。若い人に「好きなものを読みなさい」と言うことは大事だと思います。今の人は女性に神秘性を感じないんですよ。インターネットでいつでも実体を見ることができるから、本から情報がほしいだなんて思わない。すぐに答えがわかるから、好奇心や想像力に欠けてしまっているんじゃないかな。
林:会長が、「女性とはこんなに素晴らしいものなのか」と初めて思われた恋愛小説は何ですか。
丹羽:子どものとき、恋愛小説は読みませんでした。偉人物語や『世界少年少女文学全集』ばかりでした。
林:大人になってからは?
丹羽:谷崎潤一郎とかでしょうか。でも、渡辺淳一さんに会ってから、恋愛小説を読むのはやめました。
林:どうしてですか。
丹羽:小説はファンタジーだと思っていたら、彼は「実体験をふくらませなければ小説は書けない」と。作家の経験を追いかけるくらいなら、自分で想像したほうがいいやと思っちゃいました。
林:でも、日経新聞の連載だった『失楽園』は読まれたんでしょう?
丹羽:読んでいました。ああいう小説は、裸の挿絵があると読みたくなります。裸の挿絵がある回だけ読んでも、なぜか話がつながるんです(笑)。僕は大河ドラマも見ないし、新聞小説も読みません。学生時代以降、小説はあまり読みません。