丹羽:いやいや、本に書いてある程度のものじゃなくて、もっと感動しました。心に訴えるような感覚的、感情的なものは、小説からはなかなか得られないと思います。
林:奥さまとの恋愛で、それが得られたんですね。
丹羽:そう思っています。
林:奥さまとは大恋愛?
丹羽:約7年の恋愛、長い春でした。
林:ラブレターなんかもたくさん書かれたんですか。
丹羽:(笑顔で)まあ……。
林:たくさん読書されているから、ロマンチックで、すてきなお手紙だったんでしょうね。いろんな言葉を本から引用したり。
丹羽:引用なんてしません。
林:奥さま、ラブレターをまだ持っているんですか?
丹羽:どうしたか、知りません。
林:今、若い人が恋愛できないのは、本で得たイマジネーションがないせいだと思いますよ。
丹羽:自分の周囲の体験だけで生活しているんでしょうね。そうすると、想像力が乏しくなってしまう。たとえばトルストイを読んだら、当時のロシアはどういう生活だったかがわかる。筋書きだけでなく、そういう想像力を働かせることが、読書のインタレスティングな体験です。
林:なるほど。
丹羽:悪いことばかり言うわけじゃないけど、電車の中で終点までお化粧している若い人がいます。
林:います、います。
丹羽:教養がなくて、周囲がどう思うかという想像力に欠けています。そういう力は、読書でしか養えないんじゃないかと思う。
※週刊朝日 2017年10月6日号より抜粋