検査の方法はまず、足の付け根、手首、ひじなどにある動脈から、直径2ミリメートル程度の細い管(カテーテル)を心臓の近くまで挿入し、造影剤を注入してX線で太い冠動脈を映し出す。続いて薬剤のアセチルコリンを冠動脈内に投与する。これを入れると正常な血管は拡張するが、病変部は収縮する。微小血管狭心症の患者では目に見える太い冠動脈の収縮は起こらないが、このとき、胸痛の症状があらわれる。同時記録している心電図でも心筋虚血を示す変化が起こる。

「さらに虚血になった心筋から代謝物質の乳酸が出てきます。乳酸は普段は心筋に摂取されていますが、血管が収縮して心筋が虚血になると血液中に出てきます。これを測定することでより正確な診断が可能になります」(下川医師)

 下川医師らが胸痛の精査の目的でこの検査を実施した144人の患者のうち、49人(34%)が微小血管狭心症と診断された。

 また、太い冠動脈に冠攣縮が認められた患者は99人(69%)だった。

「これらの患者さんを約2年間、追跡調査したところ、両者を合併している患者さん21人(15%)に心筋梗塞や突然死のリスクが特に高いことが明らかになりました。したがって、これからの狭心症診療は太い血管だけに注目していては不十分です。予後をよくするためにも微小血管の異常をとらえ、治すという視点が欠かせないのです」(同)

 最近では、微小血管狭心症の患者の血液中に、発作が起こっていないときにもセロトニンが増えていることが確認できたという。セロトニンには強力な血管収縮作用と血小板の凝集促進作用があることが知られており、診断のバイオマーカーや薬の開発に役立つことが期待されている。

 また、下川医師は微小血管狭心症の予防策として女性には禁煙が必須だという。

「女性は喫煙による影響を男性よりも受けやすく、女性の喫煙者は心筋梗塞や狭心症のリスクが8倍も高い(男性では4倍)。喫煙は女性ホルモンの働きを阻害することが明らかです。血管を収縮させるRho(ロー)キナーゼという物質を活性化させる犯人なのです」(同)

 さらに、女性はいったん心筋梗塞が起こると入院中の死亡率が男性の2倍、高いそうだ。

「女性のほうが患者さんの年齢が高齢ということもありますが、狭心症や前兆がなく突然起こる急性心筋梗塞が女性にはあまり起こらないという誤解や、女性が痛みを我慢する傾向があり、結果的に受診が遅れている現実があります。これを機会にぜひ、病気に対する理解をより深めていただければと思います」(同)

週刊朝日 2017年9月8日号