岸惠子(きし・けいこ)(左)と林真理子(右)(撮影/写真部・岸本絢)
岸惠子(きし・けいこ)(左)と林真理子(右)(撮影/写真部・岸本絢)
この記事の写真をすべて見る

 フランスと日本を行き来しながら、女優・作家として活躍する岸惠子さん。ベストセラーになった『わりなき恋』のとっておきの秘話を、作家・林真理子さんとの対談で明かしてくれました。

*  *  *

林:ベストセラーになった岸さんの『わりなき恋』、何年前ですか。

岸:4年たちました。私欲張りでね、あの小説では伝えたいことが二つあったの。まず世界では何が起こっているのか、そしてその中での日本という国の特殊性というか、個性について。もうひとつは、そうした時事問題に絡めて、高齢者の凛とした生き方を書きたかった。

林:書きたいと思ったきっかけがあったんですか。

岸:テレビでも活字媒体でも、高齢者の描き方があまりにも悲惨で、怒りを感じていたのね。特にある番組で、高齢の女性が顔じゅう口かと思うほど、パカッと口を開けている様子をアップで長々と映して、その女性のひ孫ほど若い看護のひとが、赤ちゃん言葉であやすように話しているのを見たんです。私、血管が破れるほどの憤りを感じました。命ある限り人間としての尊厳があると思う。人生の最晩年にパッと虹が立つような輝きがあってもいいのではないかと思って、それはやっぱり恋かな?と。それにしても私自身がすでに立派な高齢者なのですが、頭も体のあらゆる器官も衰えている高齢男女の恋ってどうなるのかな……と一時は途方にくれました。

林:年配の女性が、セックスできなくなって悲しいことを書いた小説は今までたくさんありましたが、産婦人科を訪ねて対処しましょう、という小説は初めてだと思います。

岸:有名な総合病院の産婦人科で取材をさせていただきました。クールでユーモアがあって素敵な先生でした。「男女とも体というものは年を重ねると変わっていきますが、異性に対してときめきや興味のある女性の体は、高齢になっても潤っていられるんです」とおっしゃったの。逆に、異性に対して興味を持たなくなった女性は40代の若さでも乾ききってしまうこともあるそうなの。

林:私、もう男の人に興味ないですが、せいぜいときめくようにしたいと思います。60代後半のヒロインが非常に知的で魅力的で感動しました。隠さないけれど、下品じゃなくて。

次のページ