放送作家・鈴木おさむ氏の『週刊朝日』連載、『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は「学力」をテーマに送る。

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 数年前、地元の小学校に行ったときに、校庭にうんていを見つけた。久しぶりに、うんていに手をかけた数秒後、体が地面に落ちた。うんていなんて超楽勝でできるものと思っていたのだが、僕の腕の筋力では自分の体重を支えられなくなっていた。

 このコラムを読んでくれている団ジュニ世代の方々なら経験あるかもしれないが、自分が思ってるより体力は落ちている。40歳を超えると、体力の低下はかなり進むのだが、正直、それは仕方ないと思える自分がいる。が、しかし、最近、ある能力もかなり低下していることに気づいた。それは学力だ。

 我々団ジュニ世代は、第2次ベビーブームだったので、大学進学のときには、みんながとてつもなく苦戦を強いられた。「日東駒専」の4大学に入るために2浪、3浪する人たちも当たり前の時代。そんな激しい競争の中で受験をくぐりぬけ勉強をしてきた自分だからこそ、ある程度の学力には自信があった。テレビ朝日で「Qさま!!」という番組がある。おそらく日本のクイズ番組で一番レベルが高い番組だと思っているのだが、あの勉強クイズシステムの大枠を生み出したのは僕だ。あの番組で学習しているので、自分の学力が落ちているなんて考えてもなかった。

 だけど、それはある日、気づく。つるの剛士さんが、学習塾に通い始めたというニュース。自分が勉強したことないから子供たちにどうやって勉強しろと言っていいかわからなかったので、彼は42歳にして、学習塾に通い全教科習い始めたというのだ。このニュースを聞いたとき、つるのさんのガッツと考え方に感動した。

 
 だが、正直、おバカキャラで一世を風靡した彼だ。僕はおバカではない! だから自分は大丈夫だと思っていた。

 それと同じころ、ある雑誌の取材でよゐこの有野さんに会った。そこで、有野さんも最近勉強を始めたのだと言った。有野さんは子供に勉強を教えているのだが、小学校高学年になり、だんだん難しくなってきたと。中学になったら教えられなくなると思い、なんと、子供の通信講座の中学コースを受講し始めたというのだ。子供のフリして受講だ。子供の先回り。

 有野さんは言った。「自分で思ってるよりできへんで」と。

 それを聞いて不安になってきた。歴史などは番組で触れることも多い。心配になったのは数学だ。頭の中で台形の面積を思い出す。「(上底+下底)×高さ÷2」。円の面積は?

「半径×半径×3.14」。そこまではいい。ん? 球体の表面積ってどうやって出すんだっけ? 球体の体積ってどうやって出すんだっけ?と全然思い出せない。ネットで調べてみた。すると、球体の表面積は、球の半径をr、面積をSとすると、「S=4πr2」と書いてある。え? こんなの習ったっけ? そして、体積の公式を見てみると、「V=4─3πr3」と書いてある。え? なにこれ? こんなの習った? 嘘でしょ?? うんていから落ちたときと同じ気持ちになった。自分の学力、想像以上に落ちてます。年って凄い。

週刊朝日 2017年8月11日号

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鈴木おさむ

鈴木おさむ

鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。

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