さて、この自己効力感がどの程度あるか、「GSES(一般性セルフ・エフィカシー尺度)」という質問票を使えば、自分で知ることが可能だ。『セルフ・エフィカシーの臨床心理学』(北大路書房)の共同編著者で、北海道医療大学心理科学部特任教授の坂野雄二さんらが作成したもので、「何か仕事をするときは、自信を持ってやるほうである」など、自己効力感が高いときの行動の特徴が示された、全16項目の質問からできている。

 本誌で紹介するのはその一部になるため、あくまでも参考にとどめてほしいが、質問に対して「はい」「いいえ」で答え、「はい(項目によっては『いいえ』)」の数が多いほど自己効力感が高いという評価になる。

「自己効力感は過去の経験の積み重ねであり、生まれ持った性格とは関係ありません。考え方を身につければ、誰でも高めることができます」(坂野さん)

 冒頭のAさんが訓練によって高めた自己効力感は、ストレス社会の処方箋の一つとして今、期待されている。坂野さんは、「自己効力感を高めると、ストレスに対する“免疫力”がつくと考えられる」と話す。

 2014年6月に労働安全衛生法が改正され、15年12月からはメンタルヘルス対策として、50人以上の職場でのストレスチェックが義務付けられた。これは従業員の心理的な負担の程度を会社側が把握して、状況に応じて職場環境を変えたり、ストレス軽減のためのセルフケア(ストレスマネジメント)などを行ったりするのが目的だ。

 もちろん、環境を変えたり、ケアしたりすればストレスを軽減できるが、病気や加齢など避けられない状況での不安もある。そのときに、自己効力感を高めておけば、同じ状況であっても、ストレスそのものを感じにくくすることができる。

 自己効力感がストレスへの免疫力を高める仕組みについて、坂野さんはこう解説する。

「人は何かをしようとするとき、二つの要因が関わります。一つは『どのような行動をとると、どんな結果を手に入れられるのか(結果予測)』、もう一つは『その結果を手に入れるために必要な行動を自分はとることができるか(効力予測)』です」

 例えば、海外旅行先で道に迷ったとしよう。

次のページ