西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。帯津氏が、貝原益軒の『養生訓』を元に自身の楽しむ“道”を明かす。
* * *
【貝原益軒 養生訓】(巻第二の18)
貧賤(ひんせん)なる人も、道を楽しんで日をわたらば、大なる幸なり。(中略)
如比にして年を多くかさねば、其楽(そのたのしみ)長久にして、其しるしは、寿(いのちなが)かるべし。
益軒は養生訓のなかで「楽しむ」ことについて何度も触れています。まずは、人の楽しみは三つあると説きます。
「一には身に道を行ひ、ひが事なくして善を楽しむにあり。二には身に病なくして、快く楽むにあり。三には命ながくして、久しくたのしむにあり」(巻第一の22)
つまり善い行いをして、健康で、長生きするのが、人生の楽しみ(人生の三楽)だというのです。さらに続けて「富貴にしても此三の楽なければ、真の楽なし」と言い切っています。また、「楽しみは是人のむ(う)まれ付(つき)たる天地の生理なり。楽しまずして天地の道理にそむくべからず」(巻第二の38)とも言います。
楽しまないのは天地の道理にそむくというのですから、益軒は決して堅苦しい禁欲主義者ではありません。
益軒には養生訓とは別に、いかに人生を楽しむのかを語った『楽訓』という著作もあります。「すべての人に楽しみはある。しかし、それを知らない。本来持っている内なる楽しみに気づけば、いつどこでも楽しい」といったようなことが書かれています。
楽しみについて語っているなかで、私が一番好きなのは、
「貧賤なる人も、道を楽しんで日をわたらば、大なる幸なり」
という養生訓のくだりです。たとえ貧しくても、道を楽しむことができれば大いに幸せだというのです。そして、その楽しみにより長命になると続きます。
「道を楽しむ」というのがいいですね。ここでいう「道」は儒教でいう倫理的な道でもなく、仏教でいう悟りの道でもありません。誰もが楽しむことができる道なのです。それは趣味であっても、仕事であってもいいのではないでしょうか。
本当に好きでたまらない道を見つけて、楽しみながら歩(あゆみ)を進めていく。これこそが養生になります。
先日、易学を学んでいる人々の会で講演したのですが、100人ぐらいが集まった会場にはエネルギーが満ちあふれていました。易学の理論は陰陽二元をもって天地間の万象を説明するというものです。天地の摂理を相手にしているのですから、面白くてしかたがないのでしょう。まさに道を楽しんでいる人たちの集まりでした。
私は太極拳を30年以上続けていますが、これには自分を高めるという意識がともなっていますので、楽しみより自己実現の方だといえます。楽しむ道となると、ホリスティック医学の探究でしょうか。西洋医学のように臓器別に人間をとらえるのではなく、人間をまるごととらえる医学です。これを深めようとすると、つきることがありません。次なる展開を考えると、本当に楽しいのです。
※週刊朝日 2017年5月19日号