便が出ない──ともすれば笑い話で終わる便秘だが、寿命を縮めるとしても果たして笑えるだろうか。医師の治療にもばらつきがあり、専門家が一石を投じるべくガイドラインの作成を進めている。鍵となるのは便秘の種類だ。
慢性便秘症(便秘)は、最も頻度が高い消化器疾患の一つだ。若い間は女性が多いが、50歳以降は男女ともに患者数が増え、70~80歳では男女差がなくなる。
近年、便秘がQOL(生活の質)を下げるだけでなく、寿命を縮めることも明らかになってきた。便秘による腹痛や腹部膨満感などが食欲低下を招き、栄養状態が悪化してさまざまな機能が落ち、心筋梗塞や脳卒中、寝たきりなどのリスクが高まると考えられている。
「ところが大半の医師は、便秘を『治療が必要な疾患』と考えていません」
こう指摘するのは、横浜市立大学大学院肝胆膵消化器病学教室の中島淳医師。現在「慢性便秘症診療ガイドライン」を作成しているメンバーの一人だ。ガイドラインは基本的な治療方針を提案するもので、多くの医師がこれを参考にする。
便秘で受診した場合によくあるのは、すぐに下剤が処方されるパターン。大腸内視鏡検査をした上で「大腸がんはない。異常なし」と言われることもよくある。しかし、便秘の原因を探り、治療に進むことは稀だ。患者は病院に不信感を抱き、市販薬を使う。うまくいく人がいる一方で、市販薬では満足感を得られなかったり、服用量が増えていく人が少なくない。
適切な便秘治療を広げようという動きが出ている中、中島医師が注目しているのは、漢方薬だ。
「漢方薬は効きめの強いものから弱いものまであり、作用が緩やかで、習慣性が低い。通常の便秘薬では対応できない腹痛や腹部膨満感などにも使えますし、患者の安心度が高いのもポイントです」(中島医師)
代表的なのは、「大黄甘草湯」「麻子仁丸」「潤腸湯」「桂枝加芍薬湯」「防風通聖散」「大建中湯」で、それぞれに特長がある。