2020年には世界の死亡原因の3位になると予測されているCOPD(慢性閉塞性肺疾患)。日本の潜在患者数は約620万人とされているが、治療を受けているのはその中のごく一部だ。しかし予防や治療は可能で、効果的な新薬も登場している。
COPDはたばこの煙などの有害物質によって、肺が炎症を起こす病気だ。20年以上喫煙していると発症しやすいため、早い人では40代で発症する場合もあり、3大症状である「咳、痰、息切れ」を自覚し始める。進行すると息苦しさから動けなくなり、寝たきりになることもある。
治療の基本は「禁煙」「薬物療法」「運動療法」「栄養療法」「増悪予防(後述)」だ。最も効果的な治療が禁煙で、受動喫煙の防止のみならず生活環境全般の空気をきれいにすることが大切だ。それで咳や痰はかなり改善する。適度な運動をし、適切な栄養をとることも重要だ。しかし、息切れはそれだけでは改善しにくい。
東京女子医科大学病院呼吸器内科教授の玉置淳医師はこう話す。
「薬物治療によって肺をもとの状態に戻すことはできませんが、息切れなどの症状を軽減し、進行を予防することで生活の質を保てます。最終的に、COPDによる死亡を防げるのです」
薬物治療の中心は、気管支拡張薬だ。狭まった気道を広げることで呼吸が楽になり、息切れが軽減する。気管支拡張薬にはいくつかの種類があり、重症度によって選択されるが、その基準を大きく変えたのが2013年に承認された「長時間作用性抗コリン薬(LAMA)」と「長時間作用性β2刺激薬(LABA)」の配合薬だ。
従来最初に選択されることが多かったのがLAMAで、効果が十分に得られないときにLABAを追加するというケースが一般的だった。作用の違う薬を併用することで、気道をより広げることが期待できる。
LAMA・LABA配合薬も発売当初は、LAMA単剤で十分な効果が得られなかった場合や重症患者に限り、使用されてきた。しかし最近は、軽症でも最初から配合薬を使用する傾向があるという。
「例えば高血圧の薬は効きすぎると血圧が下がりすぎる弊害がありますが、気管支拡張薬の場合は効きすぎて困ることがありません。このため、最初から効果の高い薬を使用するほうが、患者さんも効果を実感でき、吸入治療を続けやすいと考え、第一選択薬として使用されるケースが増えてきたのです」(玉置医師)