西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、2016年の球界を振り返りつつ、今後に期待を寄せる。

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 2016年は野球界にとっても、さまざまな出来事が起きた。それでも、観客動員数は前年比でセ・リーグは約33万人増、パ・リーグでは約40万人増となった。地上波のテレビ中継が減っている昨今で、プロ野球に興味がある人が増えたとは一概に言えないが、これだけ球場に足を運んでくれる人がいる。選手、球団、そして球界全体で努力した結果だと思う。

 15年秋に発覚した野球賭博による不祥事や、16年2月に覚醒剤取締法違反で清原和博が逮捕されたニュースは、球界全体に危機感を生んだし、今後も球界の浄化への努力は継続していくべきだ。崎勝彦コミッショナーを中心に、それは絶対に忘れてはならない。ただ、実際にプレーした選手は、本当に素晴らしいプレーを届けてくれた。

 25年ぶりにリーグ優勝を果たした広島、そして北海道日本ハムの驚異の追い上げによる大逆転リーグ優勝は球界全体を盛り上げたよ。日本シリーズだって、細かいことを言えばミスもあったが、第2戦で決勝打につなげた広島・菊池のバスターは、ベンチのサインを選手が状況判断によって変える勇気を教えてくれた。第3戦の日本ハム・大谷は内角低めの完全なボール球をサヨナラ打。自分で狙いを持って振る覚悟は素晴らしかった。規律だけでは意外性は出ない。野球の面白さを教えてくれる戦いだった。

 また、新たなスターも誕生した。大谷は完全にスーパースターの域に足を踏み入れた。投手として球速165キロをマーク、打っても球界を代表するスラッガーとしての力を証明した。「神ってる」で流行語大賞を受賞した広島の鈴木は言葉だけでなく、シーズン最後まで打ち続けた。

 
 15年も山田(ヤクルト)、柳田(ソフトバンク)がトリプルスリーを達成。そこに16年は長距離砲として覚醒した筒香(DeNA)、前述した大谷、鈴木ら「強く振る」選手が改めて価値を上げた。以前から指摘してきたことだが、「巧い」だけの選手はいくらでもいる。イチロー(現マーリンズ)だって、ただバットコントロールがうまいだけではない。「強く叩(たた)く」ことが基本だ。15年から16年にかけ、強く振る選手が著しい成績を残したことは、今後プロ野球を目指す少年たちにもいい影響を与えることを期待したい。

 そして、野球・ソフトボールが2020年東京五輪で種目復活を果たした。ここからの4年は本当に野球界の発展にとって大切な時間となる。野球に興味のない方々にも見てもらえるのが五輪。「野球ってどこか面白い」「チームとしての一体感がすごい」など肌で感じてくれる機会だ。少年少女への野球の普及という草の根活動や、海外への野球振興を日本野球機構(NPB)も強く推進している。私も会員となっている名球会もさまざまな活動を行っている。さらに球界一体となって取り組む意識を持ちたい。

 オフには、広島に独走を許した巨人が久々に大型補強を行った。また勢力図が変わる可能性がある。DeNAだって、初めてクライマックスシリーズに出場しただけでは満足はしないだろう。

 ペナントレースの前には3月に世界一奪還を目指すWBCがある。2017年。野球を通じてどんな発見ができるか、私も楽しみにしている。

週刊朝日 2017年1月20日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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