由緒正しきホールにおける由緒正しきマイルス・バンドの全貌
Complete Royal Festival Hall 1984 (Cool Jazz)
「ゴールデン・ウィークはいかがお過ごしだったでしょうか」とノンキに問われたら、「GWもいかがもない、ドカンとマイルス浴びてました」と答えたい、いや答えるしかない状況に追い込まれたワタクシであります。ゴールデン・ウィークはマイルスのゴールデン・ホーンを浴びるための連休なのであるから、これは正しい過ごし方なのではないかと自分を慰めているところではあるが、ちょっと説明すれば今年のゴールデン・ウィークにはロイヤル・フェスティヴァル・ホールにおけるライヴ2種が同時に登場、急激に忙しくなったわけです。
その2種とは84年と87年ライヴだが、今回は前者。この日はすでに『イッツ・ロイヤル』(聴けV8:P734)として出ているが、音質上級ながらも2曲がインコンプリ状態の全6曲収録という寸止め盤ではあった。このクール・ジャズ盤はさらに遡ってのマスターからの収録、よってインコンプリは皆無の完全版となっている。音質の良さは変わらず、さらにタイトに引き締まった感すらある。もともとはラジオ放送音源、オープニングが《スター・ピープル》というのはそういう事情からで、番組構成者としてはスローなマイルスからスタートさせたかったのでしょう。
このCD、1曲目から6曲目はファースト・セット、7曲目から最後の15曲目までがセカンド・セットとなっている。当然のことながらラジオ音源の前者と後者では音質が異なるが、気になる後者もまったく問題なく、じつにオープンな雰囲気で録音されている。そしてもちろん、演奏は甲乙つけがたく、しかし後者のほうが曲数が多い分だけ感動も深く、とくに《スター・ピープル》における御大のロングトーンには思わずシビレる。
前者のラジオ放送音源は、聴きようによってはまだパワー全開一歩手前の感、なきにしもあらず。だがそれだけに純粋に音楽的なマイルス・バンドを落ち着いて聴くことができる。たとえば《タイム・アフター・タイム》。音程を正確に吹こうと思いながらもついつい狂ってしまった音程と、ハナから正確に吹こうなどとこれっぽっちも思わず、狂った音程で平気で吹きつづける、その両方がドッキングしてガーッと眼前が開けるようなマイルスのソロ(この言い回し、わかります?)は見事というしかない。両セットとも、そこから間断なく《ホップスコッチ》に移るが、とくに前者、この曲のヒョーキンなテーマ・メロディーがここまで音楽的に響くことも珍しい。しかもダリル・ジョーンズのベースをフィーチャーした新しいアレンジ。さらにつづく《ジャン・ピエール》もよくまとまっている。待望の復刻、いやそれを超えた優秀盤ではあります。
【収録曲一覧】
1 Star People
2 What It Is
3 It Gets Better
4 Time After Time
5 Hopscotch
6 Jean Pierre
7 Speak / That's What Happened
8 Star People
9 What It Is
10 It Gets Better
11 Something's On Your Mind
12 Time After Time
13 Hopscotch
14 Jean Pierre
15 Code M.D.
(2 cd)
Miles Davis (tp, synth) Bob Berg (ss, ts) John Scofield (elg) Robert Irving (synth) Darryl Jones (elb) Al Foster (ds) Steve Thornton (per)
1984/7/17 (London)