福島原発事故当時、福島県双葉町長だった井戸川克隆氏も福島原発事故の4カ月前に行われた避難訓練を例に挙げながらこう言う。

「10年の11月下旬に福島県と原発の立地・周辺自治体、それに東電が共同で実施した原発災害時の避難訓練のシナリオは、冷却機能が喪失して放射性物質が放出され、なおかつ火災が発生するという3.11と極めて状況が似通った想定でした。相当綿密な訓練を2日間にわたってしたのに、その4カ月後に起きた実際の原発事故では立地自治体にさえ情報が入らず、訓練は全く生かされなかった。その反省が生かされないまま、原発の再稼働が進んでいる」

 それに、住民の避難計画ひとつとっても不十分だ。伊達市の島明美さん(46)はこう不安を募らせる。

「市から土砂災害時の避難所一覧はもらいました。ですが、また原発事故が起きたらどうすればよいのか、ヨウ素剤の配布はどのルートでいつ行われるのかなどまったくわからないことだらけです。家だって目張りをしないと被曝してしまいます。原発を再稼働するなら、そうした住民の不安を解消するのが先です」

 先週の福島で起きた地震でも、いわき市の県道では避難する人たちで大渋滞が起きた。60センチの津波を観測した小名浜港から約700メートルの距離に住む40代の男性も巻き込まれた一人だ。

「津波警報が出たため、朝6時半ごろに家族を連れて2キロ離れた高台へ車で向かいました。ところが県道が大渋滞で全然動かず、普段なら5分足らずの道のりに30分以上を要しました。ラジオでは原発の燃料プールの冷却がストップしたニュースをやっているし、不安でたまりませんでした」

 前出の井戸川氏が言う。

「原発事故の反省もないままに国は再稼働を進めています。今回の地震でも、もっと高い津波が来ていたらどうなっていたか。このままでは、また大惨事を繰り返すことになりかねません」

 日本から原発輸入を決めていたベトナムは、福島第一原発の事故の影響で安全対策面の設備投資が膨らむとして計画を白紙撤回した。

 悲劇が繰り返されないよう、日本も原発から早期撤退する決断が必要な時期ではないか。(ジャーナリスト 桐島 瞬)

週刊朝日 2016年12月9日号