離婚はしない、後ろ向きな別居もしない。結婚を卒業し、距離を置いたりして長く生活する間に生じたひずみをメンテナンスする「卒婚」。男女の役割を強いられることなく、自由を認め合う“新しい夫婦のカタチ”を選択する人たちがいる。作家・夏目かをるがレポートする。
「卒婚」という言葉を世に送り出したのは、1951年生まれのフリーライター杉山由美子さん。2004年に出版した『卒婚のススメ』(現在、静山社文庫)では、互いを縛り合わず、それぞれの幸せを探しながら生きる夫婦6組を紹介した。取材で耳にした「卒婚」という言葉を軸に、自由を認め合って、ゆるやかなパートナーシップを築いていくという新しい“夫婦のカタチ”を提案した。
実は取材前から、杉山さん自身も、夫婦の在り方を模索していたという。
「大学を卒業して出版社に入社すると同時に、翻訳家の3歳年上の夫と同棲を始めました。いわゆる事実婚でしたが、当時は会社や組合が別姓を認めず、不自由な思いのまま、33歳で長女を出産しました。法律上の婚姻関係がないため、長女が自動的に母親の姓になると、自分の姓を捨てると言う夫と婚姻届を出したのです」
35歳で次女を出産し、50歳で別居婚をスタートさせた。
「同居していたころは、結婚生活というレールをふたりで走っているつもりでした。ですが、気づいたら走っているのは私だけ。料理好きな夫でしたが、大きな買い物など家庭のことでは決断をしない。先導役はいつも私。それなのに子供の前では夫を立ててしまう自分に矛盾を感じ、別居という形を夫に提案しました」
その当時、たとえば転勤の多い夫と赴任先で暮らさないように、家を購入するなど、周囲が「別居も仕方がない」と納得する状況を妻が作ることが多かった。杉山さんのようにストレートに別居を夫に申し出るケースはまれだったという。
「別居を申し出ると、夫は激怒しましたが、納得のいかないまま、応じてくれました」
夫は家から徒歩15分離れた場所に仕事部屋を持っていた。そこに夫が引っ越し、杉山さんは娘たちと暮らした。夫とは月に2~3回顔を合わせた。