『グッドマン・イン・トーキョー』ベニー・グッドマン・クワルテット
『グッドマン・イン・トーキョー』ベニー・グッドマン・クワルテット
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Benny Goodman In Tokyo / The Benny Goodman Quartet (Jp-Capitol)
Recorded At Kosei-Nenkin Hall, Tokyo, Feb. 26 & Mar. 9, 1964

 1964年、奇跡の復興を成し遂げた我が国はアジア初となる東京オリンピックの開催と、それに先立つ東海道新幹線の開通で先進国の仲間入りを果たした。7月には「ワールド・ジャズ・フェスティヴァル」が催されたこともあって、この年に来日したジャズ・ミュージシャン(グループ)は前年から倍増の40人(グループ)に及んだ。スタイルはニューオリンズからフリーまで、ジャズの全史をカヴァーしうるほど多岐にわたった。そうした活況にもかかわらず、専属契約の壁か、ライヴ作は6人(グループ)の7作にすぎない。最も早いチャーリー・マリアーノ(アルト・サックス)が参加した『ジャズ・インター・セッション』(2月/キング)の主力は日本のミュージシャンなので「和ジャズ」とみなすべきだろう。そんなわけで推薦盤『グッドマン・イン・トーキョー』から紹介していく。本作はアメリカ本国でも同時発売され、そちらは『メイド・イン・ジャパン』と題された。

“キング・オブ・スウィング”ベニー・グッドマン(クラリネット)は1957年1月にビッグバンドを率いて初来日、その年に来日した唯一のグループだった。公式ライヴ作は残されていないが、NHK-TV『ベニー・グッドマン特別放送』の放送録音があるらしい。2度目となる1964年の来日公演ではユニークなプログラムが組まれた。第1部では近衛秀磨氏指揮の東京ロイヤル・フィルハーモニー・オーケストラとの共演でモーツァルトの《クラリネット協奏曲イ長調K.622》を演奏し、一転して第2部ではカルテットを率いてスウィング・ジャズを演奏した。本作には2日間の東京公演の第2部で演奏したなかから11曲が選ばれている。いずれもグッドマンお得意のスタンダード曲だ。来日当時、グッドマンは54歳、35歳のディック・シュリーヴ(ピアノ)、34歳のモンティ・バドウィッグ(ベース)、29歳のコリン・ベイリー(ドラムス)と、堅実な中堅どころが脇を固めた。

 我が国のジャズ・ファンの第1部への反応のほどは知らないが、おそらくオープナーと見られる《チーク・トゥ・チーク》では万雷の拍手で迎えられている。待ってました!ととれなくもないが。モダンなリズム・セクションをバックにグッドマンは衰えを知らないどころか若返ったかのような奔放なソロを繰り広げてスリリングだ。清らかな《ライク・サムワン・イン・ラヴ》、哀感と情熱の《クローズ・ユア・アイズ》、内省の《生きている限り》、思いがけずもグルーヴィーな意匠が施された《サヴォイでストンプ》と、ご機嫌な波動に身を委ねるうち早くもLPのA面が終わる。憂鬱などものかは、情熱的な《マイ・メランコリー・ベイビー》、万感迫る《メモリーズ・オブ・ユー》、キュートな《恋は万能》、切々たる《ユア・ブレイズ》、技巧とアイデアが冴える《ダイナ》と続き、御大のメンバー紹介を含む感傷的なクローザー《グッドバイ》をもって極上のコンサートは幕を降ろす。

 グッドマンに名演を生ませた原動力は実に快適でツボを心得たリズム・セクションだ。とりわけ演奏をグイグイ前に推進する西海岸派の雄、モンティの美技には惚れ惚れする。1968年頃、ビギナーだった筆者にもその巧さはたちどころにわかった。これほどの名盤がジャズ本や雑誌で紹介されたという記憶はないが、個人的には『プレイズ・フォー・ザ・フレッチャー・ヘンダーソン』(1951年4月/コロンビア)に勝るとも劣らない、戦後のグッドマン・コンボの名盤だと思っている。あるいはモダンな感覚がオールド・ファンのお気に召さなかったのかもしれない。このときの“キング・オブ・スウィング”は断じて過去の人ではなかった。上掲のジャケットはオリジナル盤(東芝音楽工業)のものだが、その入手は難しいだろう。帰米後のビッグバンド作『ハロー・ベニー!』(1964年6月/キャピトル)との2in1CDが容易く手に入る。amazonへのリンクはそちらにしておく。

【収録曲一覧】
1. Cheek To Cheek
2. Like Someone In Love
3. Close Your Eyes
4. As Long As I Live
5. Stompin’ At The Savoy
6. My Melancholy Baby
7. Memories Of You
8. I’ve Got The World On A String
9. You’re Blaze
10. Dinah
11. Goodbye

Benny Goodman (cl), Dick Shreve (p), Monty Budwig (b), Colin Bailey (ds)