作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は混乱が続く都政に不安を募らせる。
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テレビ見てたら、猪瀬直樹さんがクイズ番組に出ていた。高学歴芸能人に交じって猪瀬さんは、本気で1位を狙っているように見えた。間違えると恥ずかしそうにし、難問をクリアすれば、当然ですよ、みたいなポーカーフェイスでニコリともしない。タレントなのか、ジャーナリストなのか、ただ物知りなオジサンなのか……よく分からない登場だった。それにしても、なぜこの人が430万票も獲得したんだろう……あの時の空気がまるで思い出せないんですけど……。
都知事選といえば、2003年、石原都政に対抗して出馬した樋口恵子さんの選挙が忘れられない。樋口さんは、勇ましい石原慎太郎都知事を「軍国おじさん」と呼び、ご自身を「平和ぼけばあさん」と名付けて闘った。樋口さんは石原さんと共に1932年生まれの、当時70歳だった。
石原さんは第1期の都知事時代、「閉経した女は地球にとっては弊害」というようなことを、他人の口を借りるようにして雑誌で発言し、女性たちに訴えられた。樋口さんは、女たちの怒りと悔しさを代弁するように、ジジイとババアの闘いに臨んだが、石原さんの強さは圧倒的だった。世間は女性差別発言など、すぐに忘れてしまうのだろう。知恵あるババアではなく、威張るジジイを信頼するのが都民の現実なのだ。
石原さんは、尖閣諸島を東京都が買い取ると言い出し寄付を集めたり、東京オリンピックに固執したりとでかい花火をあげてきた。一方で、男女共同参画を支えてきた東京女性財団を潰し、養護学校で性教育を行った先生たちを処分するなど、男女平等や性に関する活動を冷酷に切り捨てた。
壊したものを立て直すのには、築くための時間よりも数倍かかるのだ。女子どもが大切にされない都政で、保育園の実質的な待機児童数は減らず、90年代に活発だった都内の女性センターは、骨抜きにされた。外国人差別発言を平気で放つ都知事のもと、ヘイトスピーチデモはじわじわと広まっていった。
それにしても心配なのは、今の東京があまりに不運続きだということ。競技場なかなか決まらない、ようやく決まったと思ったら聖火台なかった、ザハさん急死した、エンブレム問題起きた、裏金問題いまだに不透明、都知事連続不祥事……次々に見舞われる困難に、これ昔だったら祈祷師を呼ぶレベルではないかと思う。次の都知事には、心のきれいな、呪いの力に巻き込まれない強い方がいい。宇都宮さんだったら、無欲っぽいから呪われなさそうね。小池百合子さんは業が深そうでなんか怖い……とか思っていたら、鳥越俊太郎さんが立候補し宇都宮さんが辞退することになったとか。既にいろいろ波乱含みのスタートだけど、私は早く石原都政の残影から逃れたい。優しい東京に住みたい。
※週刊朝日 2016年7月29日号