箱根駅伝で39年ぶりの完全優勝に導いた青山学院大学陸上競技部の原晋監督。ユニークな指導法が各方面から注目を浴びている。しかし、実は一度、ピンチもあったそう。原監督や選手の皆さんが暮らす町田寮で行なった作家・林真理子さんとの対談では、意外な乗り越え方を明かした。
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林:ところで原監督ご自身は一度陸上から離れて、中国電力で営業マンをしていたころ、青学の陸上部の監督に誘われたんですよね。
原:大学を卒業して中国電力の陸上部の1期生として入ったんですが、入社1年目に右足首をねん挫して、5年で退部して営業所に配属されました。そこで一念発起して営業マンとしてかなりの成績をあげたんですが、10年くらい経ったとき監督の話が舞い込んできたんです。
林:就任当初、「3年間で結果を出す」とおっしゃったのに結果が出なくて、そこで必死のプレゼンテーションをして契約が継続されたと書かれていましたが。
原:実際には、「5年で箱根駅伝に出場する」という言い方をしたんですが、僕は3年契約の嘱託職員だったので、目標と契約期間にミスマッチがあったんです。しかも運の悪いことに、更新のときの3年目がいちばん成績が悪くて、チームも崩壊寸前だった。それで大学の執行部に対しては、陸上競技としての成果ではなく人間教育としての成果を話したんです。
林:たとえばどういうことですか。
原:陸上は身一つで走るシンプルな競技ですから、規則正しい生活が基本なんです。「起床は6時、門限は22時です。当初は門限破りもいましたが、いまは徐々に改善されています。ボランティアとして地域の清掃活動もやって、チームに一体感を持たせるようにしています。試験中は全員が食堂に集まり、勉強会をやっています……」。つまり、真っ当な学生を育てています、ということを熱く語ったような気がします。
林:執行部の方々の反応はどうでした?
原:キョトンとされてました(笑)。「いまやっていることが将来、陸上の成績に間違いなくつながります。土壌を改良して、いい循環に入りかけています。もうしばらくお待ちください」というようことを言ったところ、「頑張ってるんだね。じゃあ、もう1年様子を見ようか」という話になったんだと思いますね。
※週刊朝日 2016年3月18日号より抜粋