受験シーズンも最終局面に入った。積み上げてきた努力を本番でいかに発揮するか。今回はソウル五輪の銅メダリストで、日本スポーツ心理学会上級メンタルトレーナーとして活躍する田中ウルヴェ京(みやこ)さんに、試験に臨む際のメンタル調整法を聞いた。
昨年、ある大学の入試会場に、田中さんのアドバイスを受けた男子受験生の姿があった。
片方の手首に輪ゴムをはめている。試験中、難問に挫(くじ)けそうになるたび、そっとゴムをパチンと弾く。小さな痛みが冷静さを取り戻すきっかけになり、問題に取り組めた。彼は無事、合格を勝ち取ったそうだ。
これは、決して子どもだましのまじないではない。田中さんが教える、心理学に基づいた「弱気を一瞬で切り替える策」だ。
「もうだめだ」「失敗する」。ネガティブ思考に陥った時に、わずかな痛みを与えて自分をリセットするのだという。田中さんは話す。
「本番は一度きりの短期決戦ですから、即座に切り替えないといけない。理屈よりもまず、思考をストップさせることを重視します」
メンタルトレーナーとしての田中さんの強みは、学会認定の上級資格を持っているという確かな学術知識はもちろん、トップアスリートだった経験だ。びわこ成蹊スポーツ大学の豊田則成教授は、
「田中先生のカウンセリングで、悩みの渦中にある相手が、心を震わせるようなケースを見てきました。ご自身が苦しみを乗り越えてきたからこそ、言葉の重みが違うのだと思います」
緊張感を熟知した田中さんが提唱する、入試でのストレス対処法、メンタル調整法をみていこう。