イタリア料理を日本に紹介した先駆者として、また、今日のイタリア料理の盛況を牽引したともいわれるシェフの夫・片岡護さんと、レストランのマダムとして多忙な日々を送る妻・片岡長子さん。結婚してからはシェフの食卓には妻の手料理が並ぶという。
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妻:結婚するとき片岡の母が勤めていた先の外交官・金倉英一さんの奥様から言われたんです。「長子さん、あなたがマーちゃんよりおいしくできるわけはないんだから、無理しなくていいのよ」と。それに「昼は店で食べるからいらないよ」と言われて、ラッキー!って(笑)。
夫:僕は家では和食です。炊き立てのご飯に、豆腐となめこのみそ汁、白菜のお新香があれば十分です。
妻:福岡でいう、がめ煮、こちらでいう筑前煮でいいんですよね。ほかには切り干し大根やひじきの煮物、肉じゃがなど、ごくごく普通のお総菜。長男に言われました。「お母さんの料理、おいしいけど、レパートリーが少ないよね」って(笑)。
夫:家に帰ったら、普通のもので、息が抜けるものでいいんです。出身は東京と福岡ですが、味つけの違いが気になることもないよね。みそ汁が九州のほうが甘めの麦みそということくらい。
妻:私たち、けんかもないんです。この人、初対面の日から今まで、外でも店でも家でもまったく変わらない。いつも穏やかです。怒ったのを見たのは、後にも先にも1回だけ。子どもが小さいとき、何かのきっかけできょうだいげんかをしたことがあって、そのときものすごく怒ったんですね。二人を追いかけていって叱ったでしょう? あ、この人でも怒るんだ、って(笑)。怒られた子どもたちも、ものすごく驚いたくらい。
夫:怒りたいけど、聞き流しているんだよ(笑)。