東大総長五神真ごのかみ・まこと/1957年、東京都生まれ。東京大学理学部卒、同大大学院理学系研究科博士課程退学。理学博士。専門は光量子物理学。大学院工学系研究科教授、副学長、大学院理学系研究科長・理学部長などを経て2015年4月から現職(撮影/写真部・大嶋千尋)
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東大総長
五神真

ごのかみ・まこと/1957年、東京都生まれ。東京大学理学部卒、同大大学院理学系研究科博士課程退学。理学博士。専門は光量子物理学。大学院工学系研究科教授、副学長、大学院理学系研究科長・理学部長などを経て2015年4月から現職(撮影/写真部・大嶋千尋)
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京大総長山極寿一やまぎわ・じゅいち/1952年、東京都生まれ。京都大学理学部卒、同大大学院理学研究科博士後期課程退学。理学博士。専門は人類学・霊長類学。アフリカ各地でゴリラの研究に従事。日本モンキーセンター研究員、兄弟霊長類研究所助手、大学院理学研究科教授などを経て現職(撮影/写真部・大嶋千尋)
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京大総長
山極寿一

やまぎわ・じゅいち/1952年、東京都生まれ。京都大学理学部卒、同大大学院理学研究科博士後期課程退学。理学博士。専門は人類学・霊長類学。アフリカ各地でゴリラの研究に従事。日本モンキーセンター研究員、兄弟霊長類研究所助手、大学院理学研究科教授などを経て現職(撮影/写真部・大嶋千尋)

 日本の大学の最高峰である東京大学と京都大学。昨年4月に総長に就任し、改革を推進する五神真東大総長と、ゴリラ研究の第一人者で「おもろい」大学づくりを目指す山極寿一京大総長が、国立大学の人文社会学系学部廃止騒動について持論を語った。

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――昨年、文部科学省が“人文社会系の廃止”を求める通知を大学に出して話題になりました。

山極:自然科学系は国際的発信力が強いが、人文社会系は停滞しているから縮小してもいいんじゃないか、という意見が産業界から出て、国がそれに乗っかった側面があると思います。しかし、既に人文社会系はかなり縮小されてしまっています。たとえば京大の人文社会系の教員数は全体の2割に満たない。学部は全体の半分もあるのにですよ。しかし、いくら科学技術が進んでも、それを使って社会をどう動かすかという舵(かじ)がないと、日本の国力にとってすごく大きな損失になると思います。

五神:科学技術、たとえば人工知能が進歩したとしても、それを使うのは人間で、人間とつながって初めて価値になる。これからの社会では、人文社会系が培ってきた資源を維持したうえで、さらに文系と理系を融合した新しい学問を作っていくことが問われています。それは、人文社会系をどうこうするというのとは文脈が違う議論です。

山極:京大の東南アジア研究センターには、かつてアウンサンスーチーさんが研究員として所属していました。戦中には李登輝さんもいた。アジアの国々は、日本の大学の学術に親近感を持っています。日本の大学で学んだ人たちが自分たちの国に帰ってエリートとして活躍するというのは、人文社会系学部のほうが大きな価値を持っている可能性がある。それをつぶしてしまうことは、日本にとって大きな可能性を断念するものだと、私は非常に危機感を覚えています。

五神:まったく同感ですね。人類全体がこれからどういう社会システムを作ればいいかが見えなくなっている中、人文社会系の学問は活力になります。世界のオピニオンリーダーの人たちは日本の文化、学術に関心を持っていて、日本が活躍する場所はそこにある。その芽を摘んでしまうのは明らかに向きが間違っています。先日、私と同じ物理を研究されている東大の梶田隆章先生がノーベル賞を受賞されましたが、日本ではああいった基礎研究、しかもお金がかかる実験研究を40年近くも続けています。また、それに対する世界からの尊敬や信頼があります。

山極:僕はアフリカで長く研究していたからわかるんですが、大使館職員など日本の外交筋は2、3年で代わるけれど、僕ら研究者は20年、30年と代わらず現地の人たちと緊密な関係を結んでいます。その永続性は我々が保持しないといけない。これは貴重な財産だと思います。

五神:たしかに大学はタイムスケールが長いものを担っていますよね。最近、研究の活動を評価するのに「過去5年間の著作・論文の被引用数」を目安にするという基準があります。生物系など競争の激しい分野では、2~3年で引用されないと「いい研究じゃない」といわれます。しかし、山極先生が研究されている霊長類学などはスパンがずっと長いですよね。人文社会系に至っては、既に生きていない研究者の何百年前の論文を引用することもあります。人文社会系は、そういう評価基準では測れない学問なんです。

週刊朝日 2016年1月29日号より抜粋