前田健太のメジャー挑戦が表明され、エース不在の危機にある広島カープ。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、若手選手に期待を寄せる。

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 広島の前田健太が米大リーグ移籍の意向を球団に伝えた。以前から希望しており、ここ数年はエースとして中5日前後の短い間隔でも投げ続けてきた。貢献度などを考えれば、球団はポスティングシステムによる移籍を容認するしかないのではないか。

 楽天からヤンキースに移籍した田中将大のように、年俸総額100億円を超すような契約になるかどうかはわからないが、破格の契約となるのは間違いない。球威では田中やダルビッシュに及ばないかもしれないが、調整能力や制球力といった点では引けをとらない。あとは中4日、5日の登板で、どれだけパワーをためながら年間ローテーションを回れるか、だ。

 ダルビッシュがトミー・ジョン手術(靱帯の修復手術)を受けるなど、近年、大リーグの日本人投手には故障が目立つ。それだけに、もし米球界で投げるなら「日本人投手の強さ」を見せてもらいたい。

 広島では、黒田博樹の動向も気になる。来年2月に41歳。本人は「心技体の心の部分が大事。体を動かすのも気持ち。今年のモチベーションが高かっただけに、それを超えるものを探すのが難しい」とメディアに話している。

 とはいえ、日米通算200勝まであと7勝だ。名球会入りも含め、ぜひ頑張ってほしい。日米で修羅場をくぐり抜け、成功を収めてきただけに、勝ち星など数字的なこだわりはないだろう。自分の目標、気持ちをどこに定めるか、その見極めは難しいかもしれない。

 
 前田、黒田という二枚看板が抜けると、広島の痛手は大きい。エースという存在は、すぐに出てくるわけではない。エースに求められるのは、勝利数とともに、負け数の少なさだ。どんな試合でも、チームに勝利の可能性を残した試合を作らなければならない。味方が点を取れないのであれば、相手をゼロに封じる投球が必要になる。

 楽天では、田中が抜けた後のエースを任された則本が昨年、今年と2年連続で2ケタ敗戦を喫した。エースなら、15勝前後を挙げて、負け数を1ケタに抑えるくらいでないといけない。

 若手にとっては大きなチャンスと言える。大瀬良、野村あたりは、年間通じて投げ続けなければいけないだろう。

 振り返れば、私が西鉄へ入団した当初、選手が八百長に関与したとされる「黒い霧事件」で主力投手が次々に抜けた。入団1年目の1969年オフに永易将之さんが永久追放となり、翌70年には与田順欣さん、益田昭雄さん、池永正明さんも処分された。

 投手が少なく、私は70年には40試合に登板し、11勝18敗。とにかく負けた。入団5年目の73年は15勝14敗で、ようやく勝利数が敗戦数を上回った。敗戦の中から少しずつ、プロで生きぬく術、勝つための投球というものを身につけるしかなかった。

 投手にも野手にも、必ず世代交代の時期は来る。若手には殻を破る絶好の機会ととらえてもらいたい。一人ひとりが成長しなければ、下位に低迷するチームになってしまう。「カープ女子」という言葉が生まれるなど、広島には熱烈なファンがいる。黒田には「次のエース」を育てるためにも、もうひと踏ん張りしてほしいし、若手投手には自らを飛躍させる覚悟を持って来季に臨んでもらいたい。

週刊朝日 2015年12月18日号

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